哀愁

□黄葉
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「・・・・でさ、例の物。これ実は毒なんだぜ?」

目立ちたがりやの佐倉がひそひそ声にならぬ大きな声で周囲の注目を集めようと、懸命に努力していた。


眠い・・・異常に。
僕は昼過ぎの学校で、ぼーっとしていたが、つい眠気に負けて寝てしまった。授業中ぶっ続けだ。


僕は昨日、夜中の三時くらいまで千里―・・・こと、千秋とパソコンで会話をしていた。

パソコンで会話といっても、僕が彼女のホームページに勝手に書きこんで会話をしていたもんだ。

僕が千秋の元に訪れていて喜んでいても、相手は僕がまさか”哀愁”であることには気づいていない。

当たり前である。


でもそれが、僕を妙に嬉しさに引き寄せる。



単なる些細なことなのに、僕の傷心に光と温かさを与えてくれる・・・









「・・・ほんと、これ正真正銘の毒物なんだって!・・・信じてくれよ。」

佐倉の妙に悲しそうな声が響き渡る
・・・
一体何事なのだろうか?
僕は耳を傾けた。




「これは世にも珍しい、ナイルコブラの毒さ!・・・これを飲めば楽〜に、簡単に死ぬ事できるわけ。え?・・・だからホンモノなんだって・・・」
佐倉の横にいた、体格のいい男が佐倉に近寄った。

「じゃあ、実際に死ねるかどうか試してみろよ。」

翠がイライラと佐倉の首根っこに掴み掛かった。

翠が掴み掛かるなんて珍しい。・
・・・僕はびっくりしていたが、寝ているフリを続けた。

「じゃあ、見てみろ!・・この俺様の力を!」

佐倉は狂ったように笑い出していつの間にか(いつ持ってきたんだ?)自分のポケットから小さな小瓶を取り出した。

その小瓶の中に、小さな鼠が這いずり回っていた・・
恐怖に、薄い髭がぴくぴく痙攣している・・・・
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