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□ただ愛したかった…
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ただ、愛したかっただけだった。
イザークの腹からナイフを引き抜くと、どっと血が溢れ出た。イザークの足から力が抜け、支えきれず、そのまま二人で床に座りこんだ。
「アス………ラン…」
傷つけることしか出来なかった。
殴ったりもした、めちゃくちゃに詰ったりもした。
たくさん傷つけた。
君に辛い顔をさせることしか出来なかった。
傷つけることしか出来なかった。
ただ愛したかっただけだった。
「泣く……な…」
「泣いてなんかない。」
こんな形でしか、
傷つけることでしか、
自分の感情を表現出来ない。
俺達二人を中心にして、紅い液体が円を描いていく。
温かい液体の中に居て、まるで二人で風呂に入っているみたいだ。
「な…くな……アス…ラ…ン…」
イザークの唇が俺のものに重なり、ゆっくりと瞳を閉じた。
ただ愛したかっただけだった。
傷つけることでしか表せなかった。
ゆっくりと施されるキスは今までのどのキスよりも、甘い。
唇を離すと、イザークの頭がガクンと下がり、俺の胸に落ちた。
「…イザーク……」
ただ愛したかっただけだった。
「大丈夫だ、一人にはしない。俺も行くから…」
イザーク、ごめん。
傷つけてごめん。
ただ愛したかっただけだった。
「…いざ……く…ッ…」
イザークの血で濡れたナイフを振り上げ、自分の喉元へ振り下ろした。
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