短篇集
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小さな部屋の小さなベッドに沈んだ。
机の上の資料は次の仕事もぎっしりとスケジュールがつまっていることを示唆する。
銀ちゃんに協力をお願いし格安で提供して貰った小さなアパート。
小綺麗で住み心地もいい。けど。
響く笑い声は今はない。
寂しく……は、ない。
名前も変えて臨んだモデル業は一言で言えば大成功だ。
瞬く間に仕事でてんてこ舞いになった。
それ自体は別にやましいことではないのに、心のどこかで後ろめたく思う自分が毎日顔にかっちりメイクさせる。
ばれないよ。大丈夫よ。
今、あたしはただのモデルで…元真選組隊士だなんて誰も思わない。
ほら今日も仕事だ。
寝ぼけた頭を無理矢理起こしてサングラス。
羽織りを纏って扉を開けると、眩しすぎる外界に踏み出した。
このスタジオでの撮影は嫌いだ。
ため息混じりに荷物を下ろして、いやいや、モデルがそんなでどうすると一喝しぐっと顔を上げる。
明かりの燈ったセットまで小走りで近寄った。
―――その、とき。
くん、と何かが引っ掛かって周りの時間だけが止まったかのようにあたしの体は前へ傾く。
あっ、また……
そう思った時には、ガシャアアアン!という耳を刺す音があたりに響き渡っていた。
床にたたき付けられた衝撃と途端に周りから集まる視線にかっと身体が熱くなる。
「大丈夫!?」
スタッフさんやマネージャーさんが慌てて駆け寄ってくれる端、あたしは確かに見た。
薄ら笑う、同じモデルさんの葉月さん――――
「気をつけてね、スタジオ走ったら危ないわよ」
あなたが、どうせまたあなたが。
しきりに大丈夫かと心配してくるスタッフを大丈夫ですと払うと、面白そうに笑む葉月さんをじっとみつめた。
綺麗だなあ
ぼんやり思うのだ、意地悪しててもこの人本当に綺麗。
―――綺麗ですぜら桜子―――
もう聞こえないその声は、心の奥でのたうちまわる喘ぎに変わる。
曖昧に溺れて苦しい、苦しい。
たとえば麻酔がかかったなら、どんなに楽だろうか――――
もしもの想像に焦がれていた、
そのまま全部、忘れてしまいたいほどに。
無理矢理笑顔を作ってあたしは青いスタジオへ向かった。
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