短篇集

□潮風BIRTHDAY
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あまりに静かな世界が突然怖くなり、俺はにわかに飛び起きた。

いいや、食堂行こ。なんか食い物あるかも。

ぼんやりと頭をかきつつ風が吹き抜ける廊下を歩いた。


(……お)


食堂に面白そうな奴発見。殊勝にも掃除をする山崎。

こいつは使えそうだな。
俺は駆け出して、その背中に飛び蹴りを入れた。


「うわあああ!何するんですか沖田さん!」

「べっつにー」

つんとすませば山崎は水が雑巾がとぶつくさいいながら背中をさする。

「なんなんですか一体…」


大したことはなかったけど、なんだか何十年ぶりくらいに人と話したような気分だ。

とりあえずほっとしてザキの背中を踏み潰す。


「いだだだだやめて下さいよ!」
「ひま。」

「ひまって…」


当惑したようなザキの顔。いいぜ、そしてもっと鳴け。

「痛い痛い沖田さん骨!それ骨!」


散々背骨をごりごりと踵で踏み潰したのち、とうとう山崎にキレられた俺はしぶしぶ食堂をあとにした。

ちっ、山崎のやつ…つまらねぇ。

どんなに蹴っ飛ばしても一向に掃除をやめるそぶりを見せなかった。

そんなに俺の相手は嫌かよ。くそ。


俺は欠伸をもらす。
あーあ、腹へったィ…

そこでぴかーんと、明かりが点ったように閃いた。

団子屋へ行こう。外なら誰かに会うかもしれねぇ。
さっそく刀をさして門を飛び出した。




町はいつも通り賑わっていた。

過ぎ行くカップルがやけに目について、俺は意図せず俯き加減に早足で団子屋を目指す。

「おばちゃーん、みたらし頼みまさあ」

中へ声をかけると縁台にどっかり座る。

ぼんやりと落ち着けば、今度は素直にうらやましいと思った。

いいなぁ、俺も桜子と歩きてぇや。

正直に、そうつぶやいた。


「はい沖田さん、いつもありがとうね」

突然聞こえた声とごとり、という皿の音にはっと我に返る。

うまそうな団子がたんまりと積まれていた。


「サンキューおばちゃん」
「ゆっくり食べるんだよー」


暖簾の向こうから聞こえた声を背中で受けて頷きながら、豪快に団子にかぶりつく。

甘い。うめぇな。


流れていく雲が、じれったいほどゆっくり旅をしていた。
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