人の血 鬼の血
□第2話 其ノ女 可笑シ
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彼岸花の中に立つ女。
顔がよく見えた訳ではない。
女は傘をさしていたからだ。
だから美人だからとか麗しかったからとか、そういうことじゃない。
なにか引き付けられるものがあったのだ。
「おい、あの女を引っ捕らえろ!」
ふいに聞こえたそんな声に俺は我にかえる。
反射的に、その女に叫びかけていた。
「あんた!逃げなせェ!」
しかし。
俺のとっさの叫びもむなしく、大柄の男が女の首根っこを掴んだ。
ギラリと妖しげに光る刀が、女の喉元に突き付けられた。
(ちっ…人質とられちまった)
犯人を追い詰める警察にとって、人質をとられるとはもっとも厄介で緊張感を要するシチュエーションの一つである。
これは面倒なことになる、と俺は頭の中で先刻別れた土方コノヤローの応援を期待しながら毒づいた。
「クク…沖田総悟、近づくなよ? この女の首飛ぶとこ見たくなけりゃな」
「わかったわかった。
わかってるからそいつを放しなァ
関係ねーだろ。」
とりあえず口先で説得を試みるが、沖田はこの手の駆け引きはあまり得意ではない。
土方はなにしてやがる、てめーの十八番だろうが。
わずかな焦りを覚えだした、
その時だった。
「ぐええ!」
「ぐはっ」
突然。
男達が四方八方へ吹っ飛んだ。
「!?」
女を取り囲むようにしてたっていた、ずんぐりした巨体揃いの男たちが、彼岸花の中へ飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ…
にわかには状況を理解できなかった。
それはどう見ても、真ん中に囲まれていたやつにしかなし得ないことだ。
まさか…まさかあの女が!?
「うわァアアア!!」
最後の一人らしき男が彼方へあえなく飛んでった。
花畑に静寂が訪れる。
一面に広がる彼岸花の中には、俺と、そして不気味なまでに直立したままの女だけ―――――。