人の血 鬼の血

□第5章 オナジ色
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「銀ちゃん…」



目を見開いた千鶴。

旦那もしばらく驚いたように見つめていたが、やがていつもの目に戻って呟いた。


「千鶴」


俺はそんな2人を黙って見ていたが、頃合いをはかって問いかけた。


「旦那ァそいつと知り合いなんですか」

「まーな。元気だったか千鶴」

「うん。銀ちゃんこそ…糖尿治ったの?」


聞き返す千鶴に、旦那はぴくっと反応した。


「んっ…と…」

「心配ないヨ、じゅんちょーに日に日に悪化してるネ。

それよりお前、千鶴っていうアルか」

「うん。あなたは…えっと、神楽ちゃんだっけ?」

「神楽でいいヨ、私も千鶴って呼ぶヨ。」


わぁ、友達みたいっとはしゃいで、チャイ
ナの手を握る千鶴。

…いや、みたいっていうか。

今のはどーみてもれっきとした友達のそれだったんじゃねーのか?


「何をいってるアルか。私たちもう友達アルヨ」

「え、そうなの?これ、友達になれたの?」


目を丸くする千鶴。
辺りにいた全員が、その様子に首をかしげた。



「千鶴?なんですかィその友達いねーみたいな物言いは」

「え?あっ、そーだよねそーだよね!

最近ずっと遠くで過ごしてたからかな〜なんて…」

友達鈍りしちゃった、と笑千鶴。

聞いたことねぇぞ友達鈍りって。


――――でも
なんとなく、わかる気もした。

なんとも言えない感情につつまれる。

それはもしかしたら 友達なんて一人たりともいなかったかつての「俺」の、ひそやかな共感だったのかもしれない。



「それより銀ちゃん…この子達、ひょっとすると銀ちゃんの家族?」


チャイナ達を手で示して尋ねる千鶴。

旦那は頭をかきながら、ふっと笑った。


「家族ねェ……。ま、そんなモンかな。

俺ァ今万事屋っていう商売やっててな」

「万事屋」


興味深そうに復唱する千鶴。


「そ。頼まれたらなんでもやる店よ。
こいつらはバイトだ」

「万事屋の紅一点神楽様アル。あらためてよろしくネ」

「志村新八です。千鶴さんも、なんか困ったことあったら来て下さいね」


Vサインを突き出す神楽と、人のいい柔らかな笑顔を浮かべる新八。

千鶴の顔はわかりやすくうれしさに綻んだ。


「うんオッケー、とにかく銀ちゃんはここでなんでも屋をやってて…

社長の銀ちゃんと、従業員の神楽とメガネくんってわけね」


「おいィィィィィィ!!
志村新八っつっただろーが!!

なんでなんの前触れもなくあだ名メガネになってんスか!」

「きみの全身が、おれはメガネだと叫んでいる」

「意味わかんねーよ!」


必死に突っ込む新八をよそに、他万事屋メンバーはげらげらと笑っていた。


「新八ィ諦めろ。お前はメガネなんだよメガネしかねーんだよ。」

「初対面の女の子にメガネ扱いされるのが運命アルヨ」

「銀ちゃん神楽、かわいそうだよ」

「お前が言うなや!」


俺はそんなやり取りをぼんやりと眺める。

千鶴の表情はとても生き生きしていて、それはまるで なにか望んだものを手に入れた子供のような。

なぜだか頬がゆるんだ。

まああれだ、俺にも人並みの情っつーもんが残ってるんだな。
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