ドロップ

□第7戦 わかってる
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むわっとする湿気から逃れるように、あたしは寝返りを打った。

机の上の時計は、午前の9時を指している。

「……………」


ぼーっと天井を眺める。腕を動かすと鈍く走った痛みに、顔をしかめた。

少し、暴れすぎたかもしれない。

今日も学校、たるいな。
そろそろ奴らが動くかも知れないし…少し休もうか…


「迎えに来たんでさァ」

「…………」


うざい男の顔が浮かぶ。
あぁうっとおしい…

…意味わかんない、なんでせっかく一人なのにあんな奴の事思い出すんだろう。


「かわいい顔に傷がのこったらどーすんでィ」

………女たらし。女たらし。バカじゃないの?

うざいし。鬱陶しいし。

……なのに……
いつの間にか名前を呼んでる、自分がムカつく。

ムカつくだけじゃんよ…


「あんたァ本当にバカでさァ」


………でも。

あたしを「バカ」と呼んだのは、奴が初めてだった。

「傘はいかがですかィ」


あたしみたいなやつに、傘をくれたのは、奴が初めてだった。


「……バカ」


本当に馬鹿なのは、あんただよ。

あたしに構うとどうなるか、わからないのだろうか。
あいつわたしのこと、どこまでわかってるんだろうか?

まぁ女には人気あるみたいだし、顔が広そうだ。
知ってたっておかしくないし、知っててあの態度だとしても今更なにも驚きはしない。

……馬鹿な沖田を、巻き込む訳にはいかない。

だから何があっても冷たく接した。

なのに。
何を思ったのか、更に馴れ馴れしくなってきて…

最近では、うっかり口を閉じるのを忘れてベラベラ喋るようになってしまった。


ため息をつく。

もやもやした感情は 淀んだ部屋の空気に飲み込まれた。
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