ドロップ
□第14戦 近づいた
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朝の雑踏をふらりと歩く。
あくびをひとつし、前方を見たところで 俺の胸は躍った。
「花音〜」
後ろから抱き着く。
腕の中の身体がびくんっと震えた。
「なっ、沖田!?こんなっとこで、何して」
「スキンシップ」
「犯罪だっ」
離せと言わんばかりに身をよじる花音。
「みんな見てるでしょ」
「いいじゃねーかアピールでさァ」
「なんのアピールよ!」
バタバタもがく花音。
前も思ったけど、あんだけ強くてもやっぱりこういう手には弱いんだな。
それはこいつの繊細さのせいかもしれないが、身体的なものではなくて、精神的にくるものにとことん弱いきがする。
気をつけさせよう。
「練習でさァ花音、変態野郎にあったときの撃退練習」
「練習じゃない、実戦だ。現在進行形であってる」
頬を染めて抵抗してくる。
あんまり必死なんで、俺はその抱擁をそっと解いてやった。
「…っ…調子乗りすぎ」
「心配なんでィ」
瞳をのぞきながらそう言うと、花音は少しだけ首をかたむけた。
「…心配なんでィ」
ぽそりと繰り返すと、花音は動きを止めて 微かに唇をひらいた。
だがなんの言葉もこぼれない。
ふたりの隙間に、吹いた風。
「また…ひとりで誰か助けにいくんじゃねェかって、ひとりで…無茶すんじゃねーかって
心配なんでさァ」
心から、胸の底から。負けるわけない、屈するわけない。こいつに限って。
わかってるけど、不安が広がる。
あんなに強い姿を見ても、まぶたの裏に浮かぶのはいつも、青空にのまれそうな、あの日の花音の姿だ。
「ひとりで、いてほしくねーんだよ。」