ドロップ

□第17戦 舞い戻る
1ページ/3ページ




弾む息と共に、坂を駆け上がる。

朝8時前。
学校が始まるのは8時半より後だ。

たいていの奴らがするようにいつもぎりぎりに入る俺だが、今日は訳あり。

昨日は面倒な日直に当たっていて、学級日誌をかかなければならなかった。

すっかり忘れてたのだ。
前回ばっくれてたら、銀八に居残りくらった。

挙げ句資料運びを手伝わされる始末。もーあんなのは御免なのだ。

「はぁ、やっとつい…」

言葉を切る。
荒い息の音だけが残った。

校門の前に立ち尽くす奴を見て、俺は目を見開いた。


「はぁっ…花音…?」


黒髪の間からのぞく、黒い瞳。
間違いねェ………

「花音…だよな?」

なんでこんなに早くにいるんでィ、
よりによって今日。


そう聞くと、花音もいささか驚いたようで 一瞬固まったのち、つかつかと俺の方へ歩み寄ってきた。

お、おぉ……?

すんげぇ勢いで近づいたと思ったら次の瞬間、血気盛んな兄ちゃんばりの激しさで 花音は俺の胸倉をガバッと掴んだ。

「っゲホっ…、花音?」

何も言わない。

ただ唇をきゅっと結んで、少しだけ濡れたような瞳をまっすぐに向けてくる。

「………よ」
「え?」

「昨日の帰りっ……どこほっつき歩いてたのよ!!!」

ガンガン揺さぶられ、意識が飛びそうになる。

ちょっ……
脳みそ溶ける!!!

「花音っ…す、ストップ!」
「いっつも……鬱陶しいくらいひっついてるくせに!肝心なときにいないで……!」


唇を震わせ叫ぶ彼女に、俺は目を白黒させるばかりだ。

状況が飲み込めない。

なに……?
え、これ、どういうこと…?


「俺が…必要だったの?」
「ばーかばーか!沖田の役立たず!」

見開いた目は、本当に少しだけ潤んでるように見えた。

うっ、頭振られすぎて気持ち悪い…。

何が何だかよくわからねぇが、この女がめちゃくちゃ可愛いことを言ってるってことだけは理解できた。

なんてかわいいんだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ