ドロップ

□第19戦 伝えたい
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あつい。

前に向けていた視線を下に一度落として、大きくため息をついた。

あつい、あつすぎる…。
手でパタパタと扇いでみるが、全くの逆効果。

労力のわりに得られる風は生暖かかった。

「よいか、つまりここの頂点の座標は最小値として使える、ということじゃ。」


もう一度、もう一度前を見る。
ノートと黒板のグラフを見比べる

…よくない。全然、よくない。


「そうするとaが出て、これをAの式に代入するとbが出るじゃろ………

境ついてきておるか?」

「……多分…」

眉を寄せたまま返す。

多分とはどういうことだと怪訝そうに聞かれた。

いや、月詠先生が言ってることは、なんとなくわかるのだ。

わかるのだけど、一体これにはなんの意義があるのか。

我々一般人のこの長い人生の中で、果たしてグラフの頂点から最小値を求める機会が本当にあるのだろうか。

目的の曖昧なことに取り組むのが、昔からどうにも苦手だ。

目をとじて、ペンを置く。

思わず頭をおさえた。

比喩表現ではなく、本当に頭が痛いのだ。

『勉強しやしょう』

沖田………
あんた、何を考えてるの?

うっすら開いた目で、握られた手を見つめる。


『しばらくサボりはなしでさ。』
『会わない?』

『まさか。放課後にみっちり勉強デートでさァ』


学校終わったら校門前な。

指を立てて笑いを浮かべた沖田の顔を掻き消す。
放課後に勉強…冗談じゃない。

冗談じゃないと思ってるのに、早く終わらないかと脚を揺らす自分がもうわからなかった。


―――あと、6分
ちらりと走らせた時計の針と睨み合いながら、あたしは再びペンを握った。
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