ドロップ

□第20戦 奮闘記
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数式の羅列、グラフの混沌
ペンは走る。

導いたひとつの答えに、あたしは顔を上げる。
……どうだ………

柳眉が寄せられる。

右に左に走る視線。
そして次のとき、その赤い瞳は前に向けられた。


「正解でさァ…花音」

やっと終わったーっ!

上に突き上げた手から、シャープペンがこぼれ落ちた。

「やったー解けたー」

「頑張りましたねィ
これが解けたらもう平均なんて楽勝でさァ」

驚いた、と言うふうに改めてあたしのノートを見返す沖田。

消し跡だらけの真っ黒いページ。

いよいよ明日に迫った試験へ向けての、最後の一問だった。
こんなに勉強したのいつ以来だろう。

「人って…やるときゃやるんですねィ」
「ちょっと、どーいう意味」

睨むと沖田は慌て首を振った。


「いやいや、なんでもねー」

つんとそっぽ向くと沖田があたしの髪を引いた。

「冗談でさ、そんなつんけんしねーで下せェ」
「してない」

「いやしてる」
「してない!」

「はいはい、してない。
どーでもいいだろ、どんな花音でも俺ァOKなんだから」

「気持ち悪い」
「嬉しいくせにー」

「ほんと死ねばいいのに…」

憮然と言い放ち、机に肘をついたまま横を向いた。

カーテンの間からのぞく町をぼんやり眺める。

なんとなく視線を感じて顔を戻すと、沖田がこちらを見つめていた。

なに、と尋ねようとしたそのときだった。

「かわいい」


思考が停止した。

「かわいい」

もう一度言われ、あたしはガタッと立ち上がる。

「い、意味わかんない!」
「だからー、そういうのが可愛い。」

「はぁ!?ばかにしないでよね!」

吐き捨てて荷物をまとめる。

体が熱い。
熱い熱い!もう!

「バーカ!スケコマシ!」
「花音にしか言いやせん」

「っ……」


何度も言われた、『あたしだけ』

限定の言葉に性懲りもなく反応している自分への弁解が見つからない。

行き場をなくした熱を振り払うように、あたしは荷物を抱えて歩きだした。
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