ドロップ

□第29戦 抗う
1ページ/5ページ



つけられてる。

確信していた。
ゆらゆらと揺れる蜃気楼の中、後ろにはっきりと、付き纏う影のような感覚。

平静を保ったまま、俺は一筋の汗が背中を伝うのを感じた。

――――高杉?


いや、あいつはそんなまどろっこしことはしない、必ず面と向かって現れてくる。

仮に尾行まがいのことをしたとしても俺に気づかれるようなヘマはしないはずだ。

不信感を抱きながら俺は若干逃げるように校門をくぐっていった。



その日、授業は一日中あまり頭に入ってこなかった。

早く花音を助ける方法を考えなきゃいけないのに、どうも背中がむずりとして気持ち悪い。

気にするなよあんなの、ただの下らないストーカーだ。

ぎゅっと目をつぶって机の上で手をで組む。


そんな葛藤をしている間に授業は終わってしまった。


「総悟」

化学の教科書を机に突っ込み帰りの支度をしていたとき、上から聞こえた声に俺は手を止めた。

「土方さん」
「…体調悪いのか」

俺の後ろの席の椅子を引きながらそう尋ねてくる土方さんに俺は目を丸くした。

「まさか。なんでですかィ」

「なんか口数少なかったからな、いや、大丈夫ならいいんだ。それよか」

そこまで言って土方が僅かに身を寄せてきた。

その秘密めいた仕種に俺も思わず前のめりになる。

「…昨日の話なんだがな、ここいらの不良たちがかぶき町に集まってきてるらしい」
「なんで」

「知らねーよ。だが町内は勿論外部から流入してきた奴らはタチが悪ぃ。

風紀委員も警戒を強めるそうだが、お前も気をつけろよ。」


外部から流入してきた奴ら。

頷きながらも俺は動揺を隠せなかった。
影の気配は勿論今はない。
あれは、――――あれは

俺は乾いた唇をちろりとなめる、息をのんだ。

――――これは賭けだ

決着をきる最初の駒の采配。
今のところチャンスはこの一回だけだ。

やってみるか………



「土方さん、俺ァそろそろ帰りやす」
「ん?一緒に帰ろうぜ」

「今日はちょいと急いでるんでさァ。また今度、近藤さんたちと帰りましょうや」

かすかに目を細めた土方さんに一瞬ひやりとする。
―――探られるか?


「そうか。ま、気ィつけて帰れよ」

それ以上何も言及をしなかった土方さんに内心ほっとしながら、俺はお疲れ様ですと言って教室を後にした。


――――土方がすべてのことに勘付いていることなんて、とっくの昔から知っていたから。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ