人の血 鬼の血 徒然編

□第15章 夜ハ明ケタ
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温かな虚無だった。

冷たくない、暗くもない。
はらはら散る赤もない。

変なの……………


途切れそうになる程ゆっくりと息をつく。

ぼんやりした空間の温もりに、ただ身を寄せた。


なんだろう…。
横たえた身体の底から、じわじわと柔らかい暖かさが伝わる。

ここは、どこだろう

あたしは、何をしていたんだっけ………



「――――、」

なに…?

音がする、低く 優しい。


「――――、」


違う――――
声がする。

閉ざした心の奥底から、記憶のカケラを引き出す。

あ………
知ってる………
知ってるよ、この人――


私、知ってるの。


「お……きた、たいちょ…?」


重い手を伸ばす。

途端にずきりと鈍い痛みが走り、思わず呻きをあげる。

隊長、

鈍痛に耐えながら、あたしはその手を空白のもやの中に伸ばす。



隊長………



そのとき。冷えた手にそっと柔らかな温もりがふれた。

たまらず握ると次のとき、強く強くその腕を引かれ

あたしは―――――



「沖田、隊長」


目を開いた。

同じく見開かれた、もうひとつの赤い目があたしを見つめていることに気がついたとき、もうそこから動けなかった。

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