人の血 鬼の血 徒然編

□第17章 宴ノ女王
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「千鶴〜いますかィ」


日の暮れ始めた屯所、すーっと障子を開けると、むこうを向いてうつむいていた千鶴が慌てて顔を上げた。



「ちょ、ノックくらいしてよ!」


「あ?すいやせん」



言いつつ、俺は目を細めてつま先立ちになった。

……なにしてたんだ?



「い、一回出てって!」


「何してるんでィ」


「なんでもいいでしょ!」



千鶴が叫んだそのとき、彼女の手に巻かれた白が やけに映えて見えた。



「お前……その手」

「なんでもないからっ」


いや、あれだけの怪我を負ってたんだ、手ェくらい負傷しててもなんらおかしくはねーだろ。

あれ、でも……待てよ?



「あんなでかい腹の傷は治ったのに……?」



思わず呟くと、千鶴は泣きそうな顔をした。


「なんでも…ないから」



千鶴は視線を落とし、しっかり巻いた包帯の端をテープでとめる。

……そういえば、ずっとこうだった気がする。

白い手を見て、ひとり頷いた。



「…痛むか」

「ううん」


平気、という千鶴の顔は本当にあっさりしていたので 俺は息をついて腰を落とす。


「ならいいわ。早く治るといいな。

……実は今さっき宴会が始まってねェ…奴ら日の出てるうちに飲み始めやがったんでさァ。」



いきますかィ?

横目で遠慮がちに聞いてみる。

女だしな…男だらけのムサイ酒飲みなんざあんまり行きたくはねーだろ。

嫌ならいいでさァ、

そう言いかけたときだった。



「宴会?」



千鶴の赤い瞳が興味深げに、らんらんと光った。


「行く!!行きます!」


性懲りもなく勢いよく立ち上がった千鶴をなだめることも忘れて、俺はぽかんとした。

………なに?そのテンション。


「そ……かぃ

じゃあいくか。お前はまだ未成年なんだから、酒注がれても無視していいからな」


「は〜い」


上機嫌で答え、俺の前を行く千鶴に 何度も首を捻りながらついて行った。


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