人の血 鬼の血 徒然編

□第22章 甘味ノ幻想儚シ
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「おーい千鶴、置いてきますぜー」


朝7時。ドンドンと叩く沖田。

千鶴の部屋の襖、……ではなくて、2つ隣の厠の戸を。

「おいー千鶴ーマジ置いてきますぜ?

あれか?あの日か?二日目か?

もうかれこれ30分も」


「篭るかァァ!」


罵声と共に千鶴の部屋の襖が勢いよく開いた。


「ああ、そんなとこにいたのか

もう土方さんたち外で待ってますぜ、急がねーと。

にしてもお前二日目とか、もしかして機嫌悪いのそのせい?」

「てめーの馬鹿さ加減のせいだよ!

ちげーっつってんだろ!いつまで女の子の日引っ張んだ!」

「へいへいわかったから耳元で騒ぐなゴリラ」

「ねぇ、今ゴリラっつった?言ったよね?なんか語尾にさらりとつけたよね?」

「はいはい行くぜィマウンテンゴリラ」

「進化させんな!」


ぎゃーぎゃーと言い合いながら門をくぐると低音がぴしゃりと響いた。


「朝から騒ぐんじゃねェガキ共!

さっさと行くぞ!テロ予告の1時までにはすませて警備につかなきゃなんねー」


はっと前を見ると煙草をふかした土方さんがパトカーの前にすらりと立っている。

あたしは首を傾げた。


「え……パトカーに乗っていくんですか?」

「何か不満か?」

「いや、不満っていうか…」


周りをちらちらと見て、自分の淡い紫の着物に視線を落とす。


「ほら早く乗りなせェ」


隊長に背中を押され、渋々後部座席に乗り込むと助手席に近藤さんが座ってきた。

続いて隣に隊長、最後に副長が運転席に。

圧迫されるように縮こまり、あたしは口を開いた。


「あのォ……」

「なんだ?」

「……やっぱり、なんだかあたし捕まった人みたいで嫌なんですけど…」


隊長たちは顔を見合わせ、それからぷっと笑い出した。


「確かに連行だな!」

「まぁこいつ四捨五入したら犯罪者みたいな奴ですからねィ」

「それを言うならお前もだろ」


笑い声と共に走り出すパトカー。ザキたちが見送る屯所に陽気に手を振る近藤さんたち。


……笑い事じゃないんだけどなァ、苦笑いするあたしふっと視線を外へやる。

覚悟の週末

我知らず目を細めたあたしを沖田隊長が無表情に見つめていたなんて、勿論知るよしもなかった。


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