短篇集

□波音
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うん、青い。じつに青い。
鼻をくすぐる潮の香りに私は間をつむって息をはく。

耳を澄ませれば爽やかに麗しく届く音。

ザパァァァァン
しゃらしゃらら……

ひいては寄せて、引いてを繰り返す音。




「海だぁぁあ!!」

「うるせー桜子」

高い階段から、眼下に広がる広大な景色に向かって叫んだ私の後ろから声がした。

色の白いたいそうなイケメンが現れる。

「やだな〜沖田君すましちゃって!嬉しいくせにっ」
「上から目線ヤメロ」

海だよ!?夏しに来たんだよ!?
もっとはしゃごーよ!!
私は大きく手を広げて見せた。

「桜子、俺だって海みりゃ少しはテンション上がりまさァ。
あいつらがいなけりゃな」

そのうっとおしそうに指さされた先に目をやると…。


「何を言うアルかサド!!」

「そうですよせっかく桜子ちゃんが誘ってくれたんですから!!」

水着になった神楽や新八が抗議の言葉を口にする。

誘われたから来たというのに邪険に扱われたのでは腹立たしいのだろう。

さらにその奥では、10人いたら10人が振り返りそうな涼しげな目元の男。

「…まあ俺ァ別に来たくてきたわけじゃ…」
「そーかい なら死んでくれィ土方」

ドカァァァン!
すごい音がして、目を開けた時には土方の姿は忽然と消えていた。

「ちょっ総悟!バズーカはダメだっつーの!!」

「なぁんであんなに邪魔者がいるんでィ」

「いや…それは……いいじゃないの別に!!」


不機嫌そうに悪態をつく総悟をなんとかなだめようと私は慌てた。

だって、海に行くということは水着になるということだ。

こんなもの着て総悟と二人きりになったら、私の心臓がもたないのだ。

今でさえ、面積の少ない布地が心許なくてそわそわしてるのだ。
夏までに痩せるなんて言ってたのに結局三日坊主で終了した自分を、今更恨めしく思っていた。

とにかく、二人きりになるわけにはいかない。
お願いわかって総悟くん。

「みんなで遊んだ方が楽しいじゃん!」

そう言うと、総悟は黙ってしまった。
不機嫌そうに砂浜に寄せる波を見つめている。

…あれ……なんかまずい事したかなぁ…

神楽ちゃんや新八、ジミー達は一斉に蒼く輝く海へと走っていった。

…といっても、神楽ちゃんは砂浜で日傘さしているだけだけども。


「総悟…私達も行こうよ」

居ても立ってもいられなくなり、

私は何も言わない総悟の手を強引に引っ張って真白の砂浜へ走り出した。
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