短篇集

□狙い撃ち
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地に響く太鼓が一定のリズムを刻む中、粋な笛音が時折交じる。


夏休み、夕方、祭囃子と黄金の3拍子がそろってるのだ。
やることなんてひとつしかなーーい!


「お待たせー総悟!!」


彼と、夏祭り。

「おう、行きやしょうか」


私の姿を見るなり歩き出す総悟。

うなずいて、着物の袂を直しながら慌ててその後を追いかけた。

裾がせまく歩きにくい。

からからと響く下駄につんのめりそうになった。


…浴衣…似合ってないのかな…


何も言わなかった総悟に、不安が心を掠めていく。

感想、言ってほしいなあ。



「そ、総悟……」

「ん?」


ぼんやりと明かりをともす屋台を見回しながら、返事をする総悟。

…人の顔を見んかい!

あたしは思い切っておすように尋ねた。


「ど…どう?」
「どうって、何が」

「何って…浴衣に決まってんじゃん!」

「あぁ…昔からよく着てやしたねィ」


がーんと衝撃がわたしの胸を襲った。
そうだ、幼なじみの私達はこんなん見慣れてるのか…。

自分の期待の先走りに羞恥心が込み上げ、思わず俯いた私。

それを見て、総悟はふっと笑った。




「似合ってるな」


「ほ、ほんと!」


ぱっと顔を上げると、しゃらり、簪がゆれる。

「ほんと。だからほら、行きやしょう?」


私の手を握る総悟。

私は微笑んで、やわらかな屋台の明かりで照らされた道を歩き出した。
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