短篇集
□10月10日はなぜ祝日
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ビリリッ。薄い紙を引き破って下から現れれた日付に、あたしは満面の笑みを浮かべた。
10月10日 月曜日
キュキュキュっとピンクのマーカーでくくる。
うん、とうなずいてあたしは居間へ向かった。
「ぎーんちゃーん!!」
「ん?あぁおはよう桜子チャン」
寝間着のままソファーに腰掛けていた銀ちゃんに、あたしは飛びついた。
「今日は何の日だ〜?」
顔を上げて尋ねると、銀ちゃんは怪訝そうな表情を浮かべてから、死んだような目を細めて言った。
「アレだろ 体育の日」
「ちがうーっ」
「なんだよ違うのか」
「もっと身近なお祝いあるでしょ!今日せっかく祝日なんだから!」
「だから体育の日だから祝日なんだろ」
なんで!?いや確かに今日は体育の日だけども!
もっと大事なEventがあるでしょーが!
「うるせーよ何がEventだよ普通にイベントって言えよ」
「EventはEの音にアクセントを置いて〜はい、repeat after me」
「うぜーんだよ誰だよお前!
いるよねそういう英語教師、生徒のテンションとかお構いなしでやたらめったらリアルななネイティブ発音強制してくるやつ!」
本当に覚えてないの?
だって自分のことでしょう!?
「…信じられん」
「だぁから、お前は何が言いたいの」
はっきり言えよ、と見つめられてあたしは一瞬怯んだ。
「え…と、だからアレだよ、何かあるでしょうが…」
「何かって何が?」
「あぁもうだからいい加減にしてよ天パ!!
今日あなたの誕生日でしょーーが!」
半ば逆ギレの勢いで叫んだあたしに、今度は銀ちゃんが目を見開いた。
「ああ…そうだったそうだった」
「え、マジで?マジでやってんのそれ?」
銀ちゃんにぎゅっと抱き着くと、甘いにおいがした。
「……よかったねまたひとつ歳を重ねることができて」
「なんかやめてくんないその言い方
誕生日なのに哀しくなってくるんだけど」
「…仕方ないからさァ、プレゼント買ってやってもいいよ」
「何ソレ 何その高飛車?流行りのツンデレ?」
コーヒーを入れてきて、わたしは銀ちゃんの前にもカップを置いた。
わたしは内心物足りない。
せっかくの誕生日が、ソファーの上でダラダラ過ぎていくからだ。
「いいの?こんな誕生日…せっかく祝日なのにさ」
「いいんですぅ〜俺は桜子ちゃんと居たいんですぅ〜」
これが一番嬉しいプレゼントだからさ、という銀ちゃんが、たまらなく愛しくて。
「そんな銀ちゃんにバースデーサービス!」
精悍な顔を両手で優しく挟んで、ちゅ、とひとつキスを落とした。
「お誕生日おめでとう、銀ちゃん」
「おぅ」
ちょっとぎこちなくそっぽ向く銀ちゃんの耳がかすかに赤に染まってるのをみて。
口元がにやけるのがわかった。
あれれっ、めずれしく照れてますよこのお方。
無性にからかいたくなって、私はもう一度その頬にくちづけた。
「こっ…のやろう、にやにやしてんじゃねー!
おぼえてろよ…」
そんな真っ赤な顔で凄まれたって、ちっとも怖くないんだから。
10月10日はめでたいめでたい祝日だ。
愛しい貴方が生まれた日だから。
誕生日記念企画