短篇集
□甘いトリート
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「トリック・オア・トリート〜♡」
「お〜桜子ちゃん!来たか!」
騒がしい声が下から上がってきた。
屋根の瓦をがららと鳴らし、起き上がる。
アイマスクを外すと局長室から、包みをもって鼻歌交じりに桜子がでてきた。
どうやらハロウィーンで、あちらこちら回っているらしい。
「原田たーいちょ、トリックオアトリート!」
「はい、これでいいかな?」
「うんっ」
紙袋を抱えてらァ。
にこにこしながらお礼を言う桜子を、頬杖ついて見つめる。
ここには女隊士っつったら、桜子しかいねェ。
普通だったらこんなムサい大所帯でハロウィーンなんて、マヌケな光景にはならない。
だが、隊士たちはいささか桜子を甘やかす傾向にある。
それは近藤さんも例外じゃねェ。
証拠に、さっきも局長室から出てきた桜子は包みを持っていた。
そういう訳で、屯所は桜子のしたがる無邪気なイベントを開催しているのだ。
「あ、副長〜!」
廊下を歩いてきた土方を見て、手を振る桜子。
……いや……無理だろ。
副長〜ってお前それは無理だろ。
鬼の副長にお菓子をたかるその度胸だけは認めてやるが。
「トリックオアトリート!」
「あ?」
駆け寄ってきた桜子を見て、タバコをくわえた唇を薄く開いた土方。
「お菓子!くれないならいたずらです!」
わくわくした表情でまくし立てる桜子の横で、あーと言いながら懐を探る土方。
次の瞬間、俺はあまりの衝撃に屋根から落ちそうになった。
「これしかねーがいいか?」
差し出された飴玉に慌てて桜子が手で受けると、持ち切れずいくつかがばらばらと床に落ちた。
「やったぁー!ありがとう副長!!」
「ん。食い過ぎんなよ」
しゃがんで落ちた飴玉を拾う桜子に一言残し、廊下を歩いていく土方。
な……なんでィ!
土方まで甘々じゃねーか!