短篇集

□甘いトリート
1ページ/3ページ




「トリック・オア・トリート〜♡」

「お〜桜子ちゃん!来たか!」



騒がしい声が下から上がってきた。

屋根の瓦をがららと鳴らし、起き上がる。

アイマスクを外すと局長室から、包みをもって鼻歌交じりに桜子がでてきた。

どうやらハロウィーンで、あちらこちら回っているらしい。



「原田たーいちょ、トリックオアトリート!」
「はい、これでいいかな?」


「うんっ」

紙袋を抱えてらァ。

にこにこしながらお礼を言う桜子を、頬杖ついて見つめる。

ここには女隊士っつったら、桜子しかいねェ。


普通だったらこんなムサい大所帯でハロウィーンなんて、マヌケな光景にはならない。

だが、隊士たちはいささか桜子を甘やかす傾向にある。

それは近藤さんも例外じゃねェ。

証拠に、さっきも局長室から出てきた桜子は包みを持っていた。


そういう訳で、屯所は桜子のしたがる無邪気なイベントを開催しているのだ。

「あ、副長〜!」


廊下を歩いてきた土方を見て、手を振る桜子。

……いや……無理だろ。

副長〜ってお前それは無理だろ。

鬼の副長にお菓子をたかるその度胸だけは認めてやるが。


「トリックオアトリート!」

「あ?」


駆け寄ってきた桜子を見て、タバコをくわえた唇を薄く開いた土方。


「お菓子!くれないならいたずらです!」


わくわくした表情でまくし立てる桜子の横で、あーと言いながら懐を探る土方。


次の瞬間、俺はあまりの衝撃に屋根から落ちそうになった。


「これしかねーがいいか?」


差し出された飴玉に慌てて桜子が手で受けると、持ち切れずいくつかがばらばらと床に落ちた。


「やったぁー!ありがとう副長!!」

「ん。食い過ぎんなよ」


しゃがんで落ちた飴玉を拾う桜子に一言残し、廊下を歩いていく土方。


な……なんでィ!

土方まで甘々じゃねーか!
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ