短篇集

□ぬくもり
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しゅん、ぐす
赤い鼻をすする。

冷たくなった鼻は、風邪でなくとも鼻水が出てくるくらいだ。


寒いなぁ………


カラカララと、乾いた風がぱりぱりの葉を巻き上げる。

かたい葉っぱがすれ合う音。


向こうから元気に駆けてきた男の子たちがその上を通ると、足元でぱきぱりと弾けた。


……面白そう、わたしも……


足を踏み出したときだった。

ピルルル ピルルル



わたしを止める電子音がした。

ポケットから引っ張り出して通話ボタンを押す。


「もしもし」


ずずっと鼻をすすりながら答えると、申し訳なさそうな声がした。


「すまねェ、桜子

委員会が入っちまって…もう少しかかりそうなんでさァ。」


「うん、わたし一人でも帰れるよ」


ぱし、ぱり。

電話の声を聞きながら落ち葉を踏んでみると、予想以上にいい音がした。



「ダメでさァ!暗くなんのも早ェし、危ねーだろ!

いいか、絶対そこで待ってろよ」



念を押すようにゆっくり、強く言われる。

必死な声色ではあったけど、話半分に聞きながらわたしは足を鳴らし続けた。



「うん」

「本当にわかってやすか?

なんかヤバくなったら大声出すんだぞ、学校の前なんだから」


「うん」



こくこく頷く。

見えてるはずがないのに、なんとなく相槌をうっていた。



「悪ィな、寒いのに」

「大丈夫だよ」


いいんかい頑張って、

足元に視線を落としたまま笑顔でと言うと、相手が向こう側ででれっとなるのがわかった。


「頑張るから、いい子で待ってて下せェ」

「うんっ」


ぱりぱり!

ジャンプすると、勢いよく葉が潰れて気持ちよかった。


電話が切れる。

耳からそっと離して、ポケットにしまった。

わたしはしばらく落ち葉を踏み続けた。


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