短篇集
□恋する日直
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今日一日自分が日直であることが判明した朝ほど、テンションが下がることはない。
日直ってなんだ。なんなんだ。
絶対いらないポジションベスト3には入る。
中学時代は週直というものがあり、一週間の担当なのだが班制だったため厄介事は男子にでも押し付けとけばよかった。
だが日直は一人。
つまり面倒な数々の仕事を自分一人でやる必要がある。
「はい、よろしくね」
銀八が差し出す学級日誌を受け取ると、ため息をついてそれを机に突っ込んだ。
「あー面倒くさい…」
「サボったらダメですぜ」
その声、その口調。
跳ね上がった心臓に安静を命じ、あたしは横を向いた。
「サボらないよ…沖田くんじゃあるまいし」
「俺はサボらねェ。昨日もちゃんと仕事した」
あ…そうか、そういえば沖田くんは昨日日直だったな。
日直は席順に回ってくる。
なんの奇跡か沖田くんと隣のわたしは、日直も沖田くんの次というわけだ。
そんなことを思いながら、何となく終わった会話に胸を高鳴らせる。
朝から話せちゃった…
たった、たったそれだけなのにわたしの心臓をこんな風にする、沖田くんは大好きな存在であり少し憎い。
別に席が隣だから特別仲良くなるわけでもなく、かといって全く関わらないわけでもなく。
些細な動作や言動に一喜一憂。
恋の鉄則である。
「お〜い席に着け、授業始めんぞー」
はぁ、とため息をついた。
最前列に座ったあたしの前で、赤いストーブがしゅんしゅんと火をあげる。
じんわり伝わる温かさを感じながら、重いまぶたを懸命に開き頬杖をついた。
面倒な一日の始まりだ。