短篇集
□想い溢れる一年を
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「早く早く!」
「おい、危ねーぞ
んな走らなくても大丈夫でさァ」
「遅れちゃうよー!」
凍りつく夜の町を走る。
ぽつりぽつりときらめく町の灯が道を飾っているのが麗しい。
あまりの寒さに霜がおりたその道を走っていたあたしは、ブーツの底を滑らせてよろめいた。
「あっ」
ふわっと体が浮いた次のとき、その動きは大きななにかで止められる。
「だから、危ねーっつっただろ」
「総、悟」
しっかりとあたしを抱き留めた総悟はそっと体を離し、あったかい手を絡めてくる。
「ゆっくり行こうぜ」
「うん…ありがとう」
頬が赤くなるのを感じながら総悟を見上げると、ぺんっとデコピンをされた。
「いった、何すんの!」
「その顔、反則な」
反対の手をポケットに突っ込んで歩き出した総悟の耳が真っ赤なのが見えて、込み上げる愛しさと共についていく。
行こう、忘年会。
「こんばんはー!」
「あら桜子ちゃん、沖田くん!」
「遅かったな」
「イチャイチャしてたアルよ、きっと」
「かっ、神楽ちゃん!」
真っ赤になって叫び返したあたしにニヤニヤと視線を送ってくるのはZ組のみんな。
私服の銀八先生までぴゅーなんて口笛をならした。
もおーーあのクソ天パ〜!
「そのもじゃもじゃひきちぎったろか!?」
「うるせェェェ!ちったぁこちらの心理ってもんを考えろ!
何が悲しくてこんなガキ共と年越ししなきゃならねーんだ!」
「あ、ごっめ〜ん
三十路手前の銀八センセーは可愛い可愛い彼女がいないんでちゅね〜」
「なにこいつ殴ってイイ?
桜子ちゃぁん、そんなに言うなら俺と年末過ごす?温泉旅行とか行っちゃう?」
青筋をたてて歩み寄ってきた銀八の前に、ふいに沖田がすっと立う。
「銀八ィそんなに行きたいなら俺が永遠の宇宙旅行に連れていってあげますぜ」
「遠回しに死ねっつってんの!?」
「ほらいつまでそこに立ってるんですか二人とも
早くきて食べましょうよ」
「そうだそうだ、今夜は忘年会だぞ!」
「おっしゃそれじゃいくアル!」
銀八がビールのジョッキをかかげてたからかに言う。
「それではぁ今年も一年お疲れ様でした〜」
「「「乾杯!!」」」
グラスが重なる音と共に、騒がしい宴会がスタートした。