短篇集
□はじまりは君と
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うっすら差し込む白い光で、あたしは目がさめた。
そのまま視線をゆっくりと横に向け、飛び込んできたのは時計のデジタル.
1月1日、Am9:00
布団を跳ね退け障子を開けた、その瞬間目の前にひらけるのは真っさらな一年だった。
2012年
はじめまして、あけまして。
ぴしぴしと凍った朝の空気をめいいっぱい吸い込む。
さあまず何をしようか…
…誰に会おう?
何をするにも『初』がつくこの日、どこにいこうかとあれこれ思案した果てにあたしはあることを思いついてにんまりした。
そうだ、そうだよ
せっかくの元旦なんだから…
あたしはふふと緩む口を押さえて、屯所の廊下を歩きはじめた。
「総悟ぉ〜!」
満面の笑みでスパンと勢いよく障子を開ける。
だが次に起きて、と叫ぼうとした口は開いたまま止まってしまった。
「……あれ?」
居ないのだ。
万年床の総悟にしては珍しく布団はとうにたたまれてきちんと端によせてあったし、脇にはいつも寝間着として使っている白い着流しもある。
愛刀・菊一文字もないところを見ると、とっくに起きてこの部屋を出たようだった。
……出て、何処へ?
あたしは首を捻る。
「もぉ〜どこいったんだろ…」
せっかく、一番最初に総悟のところに来たのに。
そう、最初に会いたかった。
今年初めて話すのは、総悟がいい。
「総悟……」
誰もいない部屋をしばし見つめた後、あたしは静かに障子を閉めた。
「桜子じゃねーか。おめっとさん」
振り返ると、新年早々煙草をくわえた色男。
珍しくうっすら笑みを浮かべた顔が、あたしを覗き込んだ。
「どうした?」
土方さん、
と喉元まで出かかっていた言葉が引っ掛かった。
つい数秒前までの決心を思い起こす。
―今年初めて話すのは、総悟がいい―
「桜子?」
あたしはゆっくりと顔を上げ、口パクで伝えた。
『おめでとうございます』
すると土方さんは怪訝そうに眉をひそめ、首を傾げる。
「なんだ?お前…声出ねェの?」
そうではない。ただ…
目をふせて後ろの障子に手をあてる。
総悟と、総悟と話したいのだ。