短篇集
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「真選組なんかやめてやる!」
今思えば、何を熱くなっていたのか。
とにかくやる瀬なくて悔しくて、怒りまかせにそう叫ぶと次の瞬間強烈な衝撃が頬に直撃し床に倒れた。
「いい加減にしろィ!そんなに出たきゃとっとと出ていききやがれ!」
てめーみてーなのは戦場じゃただのお荷物なんだよ!
言葉が、凶器みたいに突き刺さって。
それからはよく覚えていない。
総悟が部屋を出て行って、ひとりになって。
にじむ涙を必死に堪えながらもう限界だと、あたしは荷物をまとめた。
怪しまれないように少し時間を外してちゃんと食堂で夕飯も食べた。
夜、虫の泣く晩。
局長室の前にそっと謝罪文と辞任表をおくと、あたしは下界の夜を駆けおりた。
みんなが悪いのだ。
どうしてあんなに大切なときに呼んでくれなかったの。
見廻り組との対峙。
佐々木鉄之助の救出。
副長の過去への決着。
ただ少し、別の事件の調べで遠くまで出ていただけなのに。
帰ってきたら、誰もいなかった。
何が起きたのかって、頭が真っ白だった。何の連絡もなかったから…
本当に不安になって、自力でなんとかみんなの行方を追って、やっとたどり着いた廃ビルでは。
あたしをそっちのけで大切な、大切な死闘が繰り広げられていた。
そのこと自体だけが悲しかったわけじゃない…なぜ連絡をくれなかったの?
すぐ呼び戻してくれなかったの?
総悟、こんなことになる前から鉄之助が来て、色々と状況が変わってただろうにどうしてひとつも報告してくれなかったの?
本能的に悟ったんだ。
あたしここに必要とされてない。
私がいてもいなくても、組織は同じように回っていくんだって。
総悟は私を、恋人としても、部下としても同志としても何とも思ってないんだって…
理解するととたんに決意が固まった。
その前にこっそり手にした夢の切符。
あろうことか町を歩いていたら突然スカウトされたのだ。
モデルになりたかったというより、私に価値を見出して全力で欲しいと願ってくれる場所があることが、きっと嬉しかったんだ。
夢が叶うかもしれない…
期待に膨らんで、だから、こんなチャンス逃すわけにはいかなくて。
でもモデルと真選組、両立なんてできるんだろうか?みんなに迷惑をかけるんじゃ、
でもお通ちゃんが言ってたイメージを大切にするなら、たった一人の女隊士がモデルをやってたってマイナスにはならないはずだ。
そうやってずっと揺れていた心を、この一件が動かした。
ここに求められていないのなら、外の手を借りてでも必要とされる人間になってみせる。
私は私なりの価値を作らなきゃいけないんだ。
やってみせる私、きっと…
きっと、きっと支えてくれるから―――
音をたてて崩れた。
予想に反して不機嫌な総悟。
少し不安になりながら全てを話し終えると、総悟はこんなことを言い出した。
「で………逃げんのか?」
とんだ裏切り者がいたモンでさ。
口元の笑みが、あまりに不敵で…
予想外の言葉に思わず固まるあたしに総悟は続ける。
「お前がそんなチャラついたモンに興味があるたァ思わなかったぜ。
一番隊やめるつもりか?」
「何よそれ……だから真選組もちゃんとつづけ」
「ふざけんな!」
握り拳が畳にのめり込んだ。その音にびくりと震える。
「てめぇ…そんなことしながら仕事できると思ってんのか」
「あたしの役なんてたかが知れてるじゃない…」
「あぁ?」
「必要とされてないじゃないあたしなんか!
今のままじゃ、私はいてもいなくても同じ!そうでしょ?」
「お前ふざけてんなら今すぐぶっ飛ばすぜ」
「ふざけてない
いつもあたしのけ者じゃない!
万事屋といたって討ち入行ったってどこか遠征したってあたし」
交われてない、何処にいたらいいかわからない、私だけの価値が欲しい。
誰にも貶められない、絶対の価値が。
「モデルやろうがなんだろうが変わらないでしょ!?
心配しないでも総悟たちに迷惑かけないよ!」
「そういうこと言ってっからてめーは置いてかれんだよ!
ふらふらしやがってそんな不安定な奴討ち入で使えるわけねェだろぃ!」
使えない
ぎゅっと掌を握るあたしの脳裏を駆け巡るのは今までの日々……どこかでつまはじきにされたような感覚に苛まれながらもしがみついてきた。
一体何人のひとを斬ってきたんたろう。
斬って斬って斬って
痛い痛い痛い…
でもこれだけが総悟についていける唯一の道だと言い聞かせてここまで来たんだ…
信じて、きた。
ウラギリモノ。
総悟の言葉は
あたしを決壊させた。
真選組なんか
「やめてやる!」
総悟に殴られたのも、勿論初めてだった。
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