短篇集
□潮風BIRTHDAY
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ちりん、りんりん
ひとりぼっちの座敷に勝手な風鈴の音がいたずらに転がった。
のぞく青い空をちらりと見、目をふせて寝返りを打つ。
7月8日、本日のニュースをお伝えします。
幕吏高官の癒着問題について、幕府は………
背景に流れる、音質の悪いラジオを切った。
風が前髪を揺すって、この時期にしては涼しい空気が額をすべる。
爽やかな昼下がり、俺は煮え切らない気持ちでごろごろしていた。
畳の香。静まり返った空間。
違和感を感じる、爽やかな空。
お馴染みの屯所が余所に見える昼下がり。
ひとりぼっちの、誕生日。
自然な流れだった。
恋人のシフトが、誕生日に入った。
仕事になっちゃったの。
ああ、そう。
って。
相手が王手会社のやり手ルーキーとして起用され社内で一目おかれていたのは知っていたし、まさか恋人の誕生日だから……なんて理由で休みにはできないのも重々承知だ。
だから格別彼女を責めたりもしなかったし、駄々こねたりなど以っての外だった。
『ごめんね、総ちゃん』
これ以上困らせたくないなあというのが正直な理由だ。
いつも世話やいてくれて、笑って。
どこか姉ちゃんに似たにおい。癒しと安らぎと温もり。
日頃彼女から得ているものの量は辺際を知らない。
少しくらい我慢したって罰あたらねぇだろぃ。
だからおとなしく、黙って頷いた。
「……………ひまだな」
怒りとか憤りとか、そんな感情はない。
ただ、なんとなく手持ち無沙汰で途方に暮れる。
ご丁寧に渡された非番も、皆昼の見回りで出払ってしまったこの場所では恨めしいだけだ。
桜子………
「……暇でさあ…」
畳につっぷす。草原の如く広がる乾いた真夏のにおいにむせ返った。