主従の糸は恋

□これがわたしの運命で構わない
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梅の花
一輪咲いても
梅は梅

かの有名な鬼の副長、土方の詠んだ、知る者の間では名のある歌である。



あなたの好きなひとはだれでしょう?
おともだち?
先輩?
名前も知らないバイトのひと?

ひとそれぞれだけど。
…わたし?わたしは、
強くてかっこいい、憧れのカリスマ上司。


上から3番目に偉くて、いつもわたしたちの先頭をきって引っ張ってくれる。

凛々しいお姿を見るだけで胸がきゅんとなって、その端正な顔がこちらを振り返った日にはもう天にも昇る思いだ。

例え神さまに逆らうことがあっても、あのひとにそむくことは決してない。

絶対の忠誠、宿命、これがわたしの運命で構わない。


「あの、さ 加恋ちゃん?
何の話?突然語りだしても全然わからないからね?」

鳩羽色の縦縞模様の着物に身をつつみ、お盆を持った青年がその暴走語りにつっこみを入れる。

「あと、そんなに団子食べちゃだめだよ。」とお茶を差し出す。

金色に近い栗毛を後ろでまとめ、前から見てものぞくほど大きなピンクのリボンを揺らしている。

青いまん丸とした目、少し幼い顔つき。細い足をぷらぷらさせながら、団子にかぶりつくその手をとめない。

「蓮くんならわかってくれるかなあと思って」

「というか君の好きな人なんてわからないし、いたことすら知らなかったし」

で、その上司?それ誰なの?

というか君の仕事って何だったっけ?そういやまだ聞いてなかったよね。
両手で湯呑みをもちそおっとすする顔を覗き込むようにして、レンと呼ばれた青年は尋ねる。

だい、だい、だいすきなあの人とは誰なのか。そう言われるとなんだか照れてしまった。

ふふと頬を染めながら、愛しい人を思い浮かべてみる。
あぁ…もう帰ろうか。早く会いたいな。

本当に無邪気な、愛らしい仕種に蓮は不覚にもときめきを覚えてしまった。

はて一体、この痛いけな少女をこんなにも乙女な姿にしてしまう男とは誰なのか。
並ではない好奇心に駆られ、思わず身を乗り出す。

「ね、誰だい?」

するとその白い顔がくるりとこちらを向き、にっこり笑んだ。

「気になる?」
「うん、気になる」
「どうしよっかなー」
「焦らすなよ」

そんなやりとりをしばらく続け、やっとこさ少女が口を開きかけた、そのときだった。

「おーいおめーら、何してるんでィ」

真昼の緩んだ空気にぴったりのけだるそうで抑揚のない声が響いた。

ゆっくり振り返る。

ストイックな漆黒の制服と、廃刀令のご時世にも関わらず腰に携えられた剣の鞘。
目に入ったその人物に、蓮はあっと声を上げた。


「沖田さん!」
お勤めご苦労様です!

若きカリスマ隊長の登場に、思わず弾んだ声が出た。


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