主従の糸は恋
□散歩がてらたまにはエサでも。
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顔だけ出して、愛しの王子様の姿を確認してから、私はぴょんと部屋の中へ踊り入りこちらに向けられた背中に飛びついた。
「たーい〜ちょっ」
「何の用でぃ」
全く動かず顔も向けない隊長に抱きついたまま、手元の机を覗き込む。めずらしく書類をまとめてるのかと思えば、怪しげな呪詛がびっしりかかれた紙に、『土方』文字がみえる。
あれの読みは、ひじかた、だよね。
難しい読みだが知り合いがいるだけで難解な読み方にも通じていく。
「また土方サン呪ってる?」
「またじゃねぇ今日も、だ。ルーティーンだよルーティーン」
「ルーチーンってなーに?」
隊長は前を向いたまま、あーそうだなァと独りごち、悩み、やがて
「毎日欠かさない日課」
と答えた。
「日課?」
「そー例えば、こうやっておめえが毎日まいにちうっとおしく俺の部屋に来やがるみてぇになッ」
「きゃあ!!」
微動だにしてなかった隊長が突然くるりとこちらを向いたかと思うと、私はあっという間に両手をねじり上げられ、畳に仰向けに縫い付けられていた。
「いっ痛い〜!」
「ったく今日は何の用でィ」
いつものことながらそっけない隊長だけど、これは私の用件を聞く姿勢だから、私に気を向けてる証拠なんだ。
だから、はたから見たらかなり暴力的なシーンともとれるその体勢のまま、私はいつも通りにこにこしながら口を開いた。
「てにーずに行きたい!」
「勝手に行ってこい」
「ううん、隊長と行きたいの」
すると隊長は目を細めて、ほぉ?と意味ありげに笑む。
「この俺にデートしろって言ってんのかィ?」
「デートでもなんでもいい。夏のデザートフェアしてるの、それに行きたいの。一緒に行こっ」
だってお出かけするの久しぶり。はやく、私隊長と遊びたいんだもん。
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顔色ひとつ変えない沖田だが、実は沖田は加恋と話していてこいつやべえなと思うことがある。
自覚のあるドSをいかんなく発揮して育ててきたこいつだけど、たまに自慢のSっ気すら削がれてしまうほどに、彼女のバカさにあてられることがある。
ようするに、なんも考えてない空っぽ娘なので、どうにも意地悪が通用しない時がちょいちょいあるのだ。
今だって両手をまとめられて押さえつけられて、畳に横たわったままニコニコして俺をデートに誘っている。
バカだろこいつ。
これで俺が、例えばオス丸出しで雰囲気を変えて押さえつけた加恋に迫っても、こいつは多分相当なとこまでいかねぇと気がつかない。
自分をキラキラ見上げて返答を待つ加恋が、本当に犬かなにかに見えてきた。
ネコ、のつもりだったんだけどな。
こいつも多分そのつもりだっただろう。
今はどっちかっていうと忠犬的なとこあるからなぁ、ハチ公的な。でもま、そんな昔の話は今はどうでもいいんだけどさ。
「おい加恋、行ってやってもいいけど言うこと気かねぇとリードに繋ぐぞ」
「わかった!
わーい隊長、てにーずデートだね」
俺の言うことがわかってるのかわかってないのか、無邪気にはしゃぎ、はやくはやくと手を引いて外へ出たがる加恋に俺はため息をつくほかなかった。