人の血 鬼の血

□第6章 許サレヌ温モリ
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『神楽でいいヨ、私も千鶴って呼ぶヨ。』

『千鶴さんも、なんか困ったことあったら来て下さいね』


神楽や、新八。


『千鶴』


どんなに時を超えても、変わらずにある銀ちゃん。


どうして?

どうしてみんな、逃げないの


『なんで逃げんだ』


いつだったか、同じ目をしたあの男に言われたな。





逃げてるのは、私だ。
知らず知らず、人から逃げてる。



『千鶴、逃げるな。

己の血から

己の運命から

苦しみから逃げるな。』


「わたしだって、私だって…逃げたくはないよ」



だけど。
自分から身を引かなければ、私は必ず人を傷つける。

大切な人たちを、傷つけたくない。

これは切なる願いだ。
こんな世界だけど、わたしの大切な…。


だからこそ。

「こころを許しちゃいけない」


一度ひらけば、きっと忘れられなくなるだろう。

そしてわたしは願うはずだ。

決して叶えられることのない、悲しく辛いだけの孤独な祈りを…。


だって、だってわたしは人間に憧れた。

人間になりたかったかわいそうな生き物だ。


一目会うまで、あの栗毛頭の男の子を勝手に同類のように思っていた。

その剣の腕を、鬼のような、残酷なまでに美しい強さを恐れられ、人々に尊敬と恐怖に近い畏怖の念を捧げられた美しい男。

沖田総悟。



ひとごろしの目を、していると思っていた。

それならあの人はわたしの仲間だ。
そうおもったのだ。



だけどそうじゃない。
現実は違っていた。

事実はわたしを嘲笑った。


だって彼は、沖田隊長は、こんなにも同じ色の目をしているのに

わたしの手に届かないほど強く正しく美しく、素敵なばしょにいた。


目を見て、吸い込まれると思った。

こんなに綺麗な瞳をした人に出会ったのは初めてだった。

赤い瞳。

わたしとは違う、人間の目だ。



そのルビーを嵌め込んだような美しい光が、輝きが、うらやましく妬ましくて。


わたしは蓋をした。
自分の気持ちに、大きな大きな蓋をしたんだ。



夜は更けていく。

今夜もわたしは、ひとりぼっちだ。
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