ドロップ

□第2戦 恐れられし眼
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「ねえちょっと、あれ…」

俺はふと、辺りを包む妙な雰囲気に気づいた。なんとも言えない、なんだこの異様な空気は?
俺たちを遠巻きに見つめる人たちで群れができている。その視線の向けられ方が、お世辞にもいいとは言い難いものであることに俺は疑問を抱いた。
なんだ?
俺ぶつかっただけだぞ、え、なんかマズイことした?

だがよく見ると、その白い目はどうも俺にではなく目の前の女の方に集まっているような気がする。
視線を女に戻した。


「…あんた…何者だ」

すると女は些か驚いたようで、細めていた目を大きく見開いた。

「知らないの…?」

……知らないの、って…

「知らないから聞いてんでさぁ、スター気取りかィ?

誰でもあんたの事知ってると思って顔パス使おうったってそうはいきませんぜ」


「………。
あたしは…B組の境花音」

――境花音――
知らない名前だ。周囲の反応からして有名なのには間違いねえだろうが、なぁ…
俺は自分のカオスな教室を頭に浮かべる。
無理だな。
あの強烈な個性がひしめく中で過ごす身にとって、他クラスのちょっとした有名人なんていうのは無名に等しい。つくづく自分の置かれた特殊な環境に呆れと、ある意味感心がこみ上げてきた。


「…人にあんだけ言ったんだから、あんたももちろん名乗るんでしょうね」

夜空にも似た漆黒の瞳にギロリと睨まれ、俺は肩をすくめた。

「俺は沖田総悟でさァ、 銀魂高校のドS王子たぁ俺のことでい
知らねーとは言わせませんぜ」

「知らないよ。あんたこそ自意識過剰もいいとこじゃない」

あんなこと言っておいてなんだけど、俺は正直驚いた。
興味ない女もいるわけだ。いや自意識過剰なんかじゃなく。断じて違う、がっかりとかしてない。
自分を知らないといったこの女の環境に、少し心を引かれる。

馴れ馴れしく口を開いてみた。

「…あんた…B組だっけか?

俺ァZ組なんでさァ。遠いけど、遊びに来たら相手しやすぜ」

「脳みそぶちまけられたいの?
何であたしがわざわざあんたの教室まで出向かなきゃならないのよ」

言うと思った!
すげー、案外わかりやすい奴だ。


「冗談でさぁ冗談。
じゃあな、次はちゃんと避けろよ」

「次はきちんと前見て歩けよ、目玉二個もついてんだからかたっぽくらいちゃんと機能させろ。そして二度と視界に入ってくんな」

「なんじゃそら」

…視界には入ると思うけど。
心ん中でそう毒づくと、顔に表れていたのか、黒い瞳を細めて睨まれた。

「んじゃぁ失礼しやーす」

背を向けて歩き出すと、周りを囲んでいた人垣がすこし離れる。ちらっと後ろを振り返ると、あの女が歩く道がさーっと綺麗に裂けていった。

―――成る程ねィ……



恐れられし眼


でもその瞳は
この上なく綺麗だった




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