ドロップ

□第5戦 あんたは大馬鹿
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もちろん、正直、いい気分ではない。

なにがそんなに不満なんでィ、花音と喋ってること? そんなん、俺らの勝手だ。

心の中で毒づく。だが花音は黙って辺りの連中を見ていた。

何か反論すればいいのに、思う自分もいるのだがなによりも頭がわかってる。

こいつはそんなことはしねぇ。
腹を立てたりも、しないだろう。


「沖田」


ふいに、花音にみんなの前で名をよばれて少し驚く。


「……なんでィ」

「この本、貸したげる」
「は?これ?小公女?」


こくんと頷かれる。…いやいや、貸したげるって言われてもなァ…

戸惑ってると、花音はふっと笑った。


「読んでよ。言ったでしょ、陰湿って。」


いや…陰湿なのはいいけど、それをどうしろってんだィ。


「馬鹿なのみんな」
「……は?」


馬鹿なのよ、みんな。
花音はそう繰り返して笑った。

「この本に出てくる奴らも、まわりのみんなも、馬鹿なのよ」

周りがざわついた。

自分たちのことを遠回しに言われてると感じたのだろう。

花音はいったい何を言いたいのだろうか。


「―――でも」

ますっぐに見つめる、黒い瞳は 吸い込まれそうなほど 澄んでいた。

「主人公は、もっと馬鹿よね」

声ではなく、その瞳が語る。
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