ドロップ

□第6戦 雨の中で
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だが、花音が昇降口から入ってくることはなかった。

首を傾げ、俺は傘を差して外に出る。とたんに音が色が雨の世界へと俺を閉じ込め、校舎の喧騒が消える。

雨は止む気配もなく、町を濡らしていた。




「あ」



校舎の裏に来たところで、俺は花音の姿を確認した。



………てか…
何してんだ、あいつ?


傘もささねーで、そいつはかがんでいた。この雨の中、一人で。
校舎に身を寄せ、しばらく様子を伺う。


花音は、スクールバックからスーパーの袋を取り出した。




「ほら、持ってきたよ」


ちょっと待てオイ誰と喋ってんだ?
まさか…浮気……!!

浮気もなにもというツッコミは控えていただきてえな。



「まってて、今拭いてあげるから」



タオルを手にそう呟く花音。あまりに気になって、思わず俺は身を乗り出した。


――――え?

あれって…………





「気持ちいい?」

「ミャーオ」






花音が……猫ォォ!?





「はい、牛乳。
ちょっとね、お腹壊しちゃうから……」



小さな器に買ってきた牛乳を注ぐ。猫はおいしそうにピチャピチャと飲んだ。
それを心底満足げに、そして嬉しそうに眺めている。



「美味しい?」



目を細めて猫を撫でる花音。

その表情は、俺も一度も見たことのないものだった。


なんとも言えない感情がわきあがる。

よくわからないが、そんな彼女を もう少しだけ見ていたいと思った。



「ごめんね、今日遅れちゃって…

片付けんのに手間取っちゃって。」


何気ない言葉を俺は拾った。

片付けんのに手間取った。
どういう意味かは重々承知だ。



「もう大丈夫、あたしの傘あげるから」



そう言って、最初からまるで役目を果たしていなかった水色の傘を、猫の入っているダンボールに立てる。


滴る雨を気にも留めない花音に、俺は静かに歩み寄った。
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