ドロップ

□第6戦 雨の中で
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「お嬢さんお嬢さん、傘はいかがですかィ」


傘をさしてそっと近づいた俺に、振り向く花音の目が見開かれる。



「おきた……」

花音はびしょびしょに濡れていて、 透けたブラウスから下着が見えないこともないことはなくて 、俺は全理性を集めてそこから目をひきはがした。

オイどうなってんだ聞いてねえぞこんなラブコメ展開、落ち着け俺…クールになれ総悟…


「………見てたな」

「見てやした」


「殺す」
「花音の右腕になるまでは死にやせん」

はあ、右腕?意味わかんない、と不機嫌そうにめんどくさそうに嘆く花音。

前髪の雫をゆびですくいながらはねのける花音を、その仕草をじっと眺めた。


「まさか天下の花音様が猫好きとは知りやせんでした。」

「だってかわいそうでしょ」

猫を抱き上げ、猫の顔を覗き込むようにして目を合わせ、かすかに、ほんの僅かに微笑んだ。

かわいいなァ。

ふとそんなことを思った。

――――ああ、そーか。

俺はうっすらと笑った。
ひとり納得してうなずく。
こいつが可愛いんだな、おれ。

と、花音が一瞬動きを止めるのが見えた。つぎの瞬間。


「っくしゅ」

花音の肩が震える。


う…

かっ、かわいい。

いやいや、じゃなくて!


「大丈夫かィ」

「へいきよ」


ずずっと鼻水をすする花音。大丈夫とは言っても彼女の鼻は真っ赤だった。

6月とは言え雨のなかになん分もいたら寒いに決まってる。俺は花音の肩を叩いた。


「中に入りやしょう」

「うーん…びしょびしょ」

「タオル貸してやりまさァ」
「仕方ないから使ってあげる」

「なにそれめっちゃタカビー」


くだらないやり取りをしながら、何気に相合い傘で校舎へ向かう俺達。

どちらともなく笑う。




雨の中で


その姿を鋭い眼差しで見つめる瞳にも気づかずに―――

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