ドロップ

□第10戦 遠回しのキス
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「沖田…どうしたの?」

「花音、それ飲んだんですかィ?」

「いや、まだ」


今朝のことを思い出しつつカバンをまさぐった。
くだんのペットボトルを取り出す。

これ、と差し出すとひったくるように取られた。


「………」


沖田はしばらくボトルを見つめていたが、やがてそれ自分のカバンにしまってしまった。

「ちょ、なにすんの」

「これはお預かりしまさァ。代わりにこれやる」
「あ、なっちゃんオレンジ!」


思わず目を輝かせて、渡されるまえに手を伸ばしてしまった。

「好きなのか?」
「うん!」

「コーラより?」
「…実は炭酸あんまり好きじゃない」

「じゃあそれにしときなせえ。」

「ありがとう」

素直に受け取ってなっちゃんオレンジをカバンにしまう。


「今日は屋上に行くのかィ」

「うーん…1時間目は屋上でやり過ごして…

次から教室に戻る」

「なら行きやしょう」
「沖田……サボりすぎ」


あたしにつられて、沖田まで「落ちこぼれ」ていきそうで、それが怖くて…そう言ったのだが、

おめーに言われたくないんでィ

と額をこづかれた。

触れられたところがあつくなったのはきっと、
…そうだ、湿気の多い風のせいだ。


「楽しみだ」

「…あたしは一人で空見るのが好きなんだけど」

「でも嫌がる日と抵抗しない日があるよなぁ」


ニヤリと笑った沖田の顔が憎たらしい。


「……そんなことないよ」

「いーや、ありまさァ。

俺がわかってないとでも思ってんのかィ、快晴の日は一人では見たくないんだろ」

「っ…」

「図星ぃ」

言葉につまったあたしを見て、面白そうに笑う。


「さ、今日も快晴だねェ」


沖田が開けた扉の向こうに広がる蒼い世界を、あたしは目を細めて見ていた。
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