人の血 鬼の血 徒然編

□第15章 夜ハ明ケタ
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「…千鶴……」


ここがどこか、そしてあたしを引き寄せたのが誰であったのか。

全てを理解したとき、思わず後ずさった。

―――なんで―――




「千鶴………よかった」



ほっとしたように目を伏せた男を呆然と見つめる。


なんで。


全部捨てたはず。

全部終わらせてきたはず。


なのに、どうしてあたしはまたこの手につかまっているの?




「沖田隊長……」


「ここァ屯所でさァ。

もうなんも心配いらねェ」




ぎゅ。

繋がった手を握られる。

伝わる人肌の温かさが、混乱したあたしの心の溝を残酷にえぐった。


だめだ……

ここに居てはだめだ…


頭のはじでそう強く感じて、あたしは 丁寧にかけられた布団をはねとばした。




「千鶴!?どこ行くんでィ!!まだ傷が…」




言い終わらないうちに、あちらこちらに走った激痛。

思わず障子の前で座りこんだ。




「言わんこっちゃねェ」




オメーはどうしていつもそう突然動き出すんでィ、と呆れた声であたしを抱え、布団に戻そうとする。




「やだ……!」


「千鶴?」




バッ


その手を振り払ったあたしに、驚いたように止まる隊長。




「帰る……!」


「待てよ」




襟首をつかまれた。

低い声が背中をはいずる。




「なんでいつも…俺から逃げるんでィ」


「に、逃げてないけど…帰らないと、」


「どこに?」




赤い瞳が赤い瞳を射抜く。

どこに?

その光が、あたしを追い詰めるようだった。




「安心できて、帰りたくて帰りたくてたまんねー場所…じゃ、ねェんだろ?」




動けない。

一歩も動けない。

金縛りみたいに、動けない。

―――嘘を、言えない。




「………でも」




それでも、帰らなきゃいけない場所。


だから――――



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