人の血 鬼の血 徒然編

□第16章 癒ス日射シ
2ページ/4ページ






「………あれ?

千鶴さん、脚は大丈夫なんですか?」

「脚?平気だけど?」


ほら、と着物から脚を出すとジミーが慌てて布団をかぶせる。


「は、はしたない格好しないで下さい!

ていうか…え?結構な傷があったんですが、もう大丈夫なんですか?」


はたと動きを止める。
……ははーん。

胸の内にわいたそんな呟きを口に出すことはせず、得意げに踏ん反り返る。

「さーね、あたし治癒力あるからな〜
ま、さすがに腹の傷はキツイけど」

「だったら大人しくしてて下さいね。
傷口ひらいちゃ厄介ですから」


あとで薬持ってくるんで、と残して立ち上がるジミーを慌ててつかんだ。

「どこいくのよ」
「え?いや、仕事あるんで」

そう言われて、はっと我に返る。
……そっか、そうだよね

ここの人達はみんな仕事してるんだ。


「がんばって」

「ありがとうございます。

あ、お昼過ぎたら沖田隊長が戻ってくると思います。」

「……隊長どこ行ったの?」

「市内警邏です。…ま、どーせあの人のことだからサボってんでしょうけど」


苦笑いするジミーに、あたしも苦笑するしかない。

やっぱりあの人、いつもサボってんだ。


「じゃあ行ってきますね。大人しくしてて下さい」

そう言って出ていくジミーに、あたしは布団を鼻の下まで引き上げて手を振った。

しばらくの沈黙。


ぼんやり天井の木目を見ていたのだが、あまりに退屈になって身体を起こした。


「はぁ〜、暇だな……」


じっとしているのは苦手なのだ。

障子の白い輝きが目をひく。
あれの向こうは、自由の世界だ。


「ちょっとだけ、ちょっとだけ……」

布団をはい出て、障子に手をかける。

すーっと開かれた障子からふわっと舞い込んだ風。

色づいた景色。

気持ちのよい眺めに、あたしは満足げに息をついた。

そして後ろ手で障子を閉め、ぎしぎし鳴る廊下を歩き始める。

うーん、なんとも言えないこの高揚感…!

「おい、何してる」


背に投げられた低い声。

恐る恐る振り返ると、紫煙を吐き出す男前な顔が見下ろしていた。


.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ