人の血 鬼の血 徒然編
□第19章 優シサガ少女ヲ傷ツケル
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「もうさァ、覚悟決めちゃいなよ。最期は侍らしく」
「いやもう女の子に蔑まれてる時点で侍もクソもなくね!?」
「ケジメには切腹。士道不覚悟で切腹。世のクズが為すべきは切腹。」
「どこでそんな鬼みたいな武士道覚えてきたの千鶴ちゃん!」
まるで氷をふくんだような冷ややかな視線。
心の奥では本気でないのだろうが、一体年頃の娘のどこにこんな冷徹でいて獰猛な気骨があるのだろうか。
「待て待て早まるな!
そうだ!プリン!プリンがあるよ千鶴ちゃん!」
手をひらひらさせ、とっさに叫んだその言葉に少女の瞳が揺れた。
(かかった!)
しめたとばかりに銀時は飛び起き、反論の暇もない程一気にまくし立てた。
「いやーこの前奮発してさ!
『甘庵』の限定商品あったじゃん、昨日行ったんだよ!
限定あまおうプリン!やべーよあれ、クリームにあまおうイチゴのソースがかかった上にあまおう原体がまるごと一個のってんの!」
「あ…まおう、原、体」
ゆらゆらと心の揺れが瞳にうつる。
てろんとプリンの如く蕩けた光がそれを物語っていた。
よし、よし!
「プリンも最高級卵と牛乳でできてるし、すげーよなあの品質に対するこだわり。蒸し方ひとつとっても上等だぜ、バステルなめらかプリンにもひけをとらねーよ絶対!」
「………」
何も言わないのが若干怖い。
だが惹かれていないはずはない。
証拠に研ぎ澄まされた冷酷さをまとった気は溶け、あどけなさの残る女の顔になっていた。
「…………食べるか?」
少女は折れた。
「やっばぁぁぁい!
これ!プリンがっ…蕩けて!甘酸っぱさが絡んで甘すぎないし!最高傑作だわ!」
「だろ、だろ?」
宝石のように大切そうにカップをもち、喜び舞い上がる千鶴を刺激しないようにおだてながら、彼女が怪我をおった箇所に素早く、的確に処置を施していく。
何この絵図ありえなくね?
獰猛な獣の世話でもしてる気分だ。
「あーおいしかったぁ、ご馳走さまでした」
千鶴は満足げに息をつき、空になった容器の上にスプーンをのせて押した。
神楽が涎をたらしてそれを見ているのに気がついて、俺はぎょっとした。
やめてほんと、すっげ貧乏人みてーじゃん。あ、貧乏人か。
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