人の血 鬼の血 徒然編

□第20章 去ルカ
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慌てて帯を結ぶと、既に数分がたっていた。

開かない襖を見つめる。
…待っててくれたんだ…

意外。

目に入った手の、透き通るような真白が鋭くささる。

心が重かった。
傷は治った、そして同時にここにいる理由もなくなったんだ…。


スパン!

「おーい終わったかィ」
「わぁぁぁ!」

突然開かれた襖と沈黙を破った声に、あたしは再び飛び上がる。

なんでこの人はいつもこう行動が突発的なんだ!

「ま、まだ着替えてたらどーすんの!」

「別に千鶴の着替えシーンなんざ見ても一銭にもなりやせん」
「なんですって!!」

顔を真っ赤にして喚くあたしをものともせず、隊長は近づいてきた。


「ほらほら、もう朝メシ食いに行くぞ」
「あ…」


傷の癒えた鉛のような手が、なんの躊躇もなしに隊長の手に握られる。

目を見開いた。

あれだけ重かったのに、この手を人前に出すことすら本当はためらわれたのに…隊長はそれを、一握りで解いてみせた。

春、雪と共に冬のわだかまりが溶けだすように…



「行こ」

食堂まであたしの手をぐいぐい引いていく隊長の姿が、逞しくて頼もしくて、とても眩しかった。




「あ、おはようございます沖田隊長!」
「おはようございます!」

「おう総悟、おはよう」

食堂に入ると、一斉に飛び交う挨拶。

「おはよーございます」と返しながら、隊長は背中に隠れたあたしの肩をつかんだ。

「…あ…」

隊士たちがあたしをみつめる。
一瞬ののち、近藤さんがにっと笑いかけた。

「おはよう、千鶴ちゃん」
「お…おはよう、ございます」

「おはよう!」
「おはよー」


返事が返ってくる。
だれかの挨拶を受け止めることがこんなにも温かだったなんて。

あたしは俯いた顔をひゅっとあげ、空席を見つけて手を振る隊長のもとへ歩み寄った。
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