短篇集

□野菜のくせに
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「いっただっきまーーーす!!」


空が織り成す見事なグラデーションの下の屯所

沈まない夜の食堂。

仕事を終えた隊士たちが、今日も集って一斉に晩御飯にがっつく。



――――――と、その直後だった。


「ごちそうさま」


ふいに聞こえた声に皆が振り返る。

その視線の先には眉をひそめた桜子の姿が。

「え…桜子ちゃん、ひとつも手つけてないじゃん

もういいの?」


ムッとした表情で、うつむき加減に今日の晩御飯を見ている。


「鈴木、ちゃんと食え。どうした?」


土方がマヨネーズを絞り出す隣で沖田も不思議そうに顔をあげたが、すぐにああとうなずいた。


「今日のメニューじゃぁいっこも食えないんだろィ」


桜子はうらめしそうにそのS笑いを浮かべた顔をにらんだ。


夏野菜カレー、キャベツの味噌汁、

ホウレンソウのおひたし、きんぴら。

今日のメニューに共通するもの、

そう――――――――



「いい歳こいて野菜苦手とか、1番隊隊士が聞いてあきれまさァ」

「うるさい」

「鈴木 ちゃんと食え。太るぞ」


マヨ丼をかき込み涼しい目で諭すように桜子になげかける土方。

そんな上司に桜子は冷たく言い放った。


「バカがつく程のマヨラーに言われたくありません。

副長こそ高カロリーじゃないですかそのまま死ねばいいのに」

「んだとコルァァァァァァ!!」

「副長っ落ち着いて!!」


刀を抜き机に足をのせていきり立つ土方を、後ろから山崎が必死に止めていた。

沖田は冷ややかな目でそれを見つめ、桜子に向き直る。


「いっこぐらい食べられないんですかィ」

「むり。吐く」

「そんときゃそんときだ、食いな」

「ぜっったい嫌」


ごちそうさま、憮然と言い放ちガタッと席をたった桜子を土方がひきとめる。


「オイコラ待てっどこ行くんだ!」

「部屋ですよ決まってるでしょう。マヨ中毒がうつっちゃう」

「うつるかァァァァ!」

「副長ォォォ」


と、これが昨日の話。


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