短篇集
□地上の七夕
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「…ん?」
ふいに隣の総悟が声を上げ、あたしははっと我に返る。
「なに、どうしたの?総悟」
「桜子…いっこ叶ってるのがある」
…え?なんだろう、「足が速くなりたい」ってやつ?それとも「おいしいものが食べたい」っていうのかな…
先ほどの下らない短冊が頭に浮かぶ。
「どれ、総悟」
腕を引っ張って尋ねると総悟は一枚の短冊を差し出してきた。
「これ」
どっくん、と心臓が跳ねた。
総悟が差し出してきたピンク色の短冊。
だってそれは―――
『彼氏できますよーに。織姫になりたい♡』
改めて見ても自分のアホさが恥ずかしいが、でも、そんなことより。
「総悟…それってどういうい…」
突然だった。
ちゅ、と音がして目の前が暗くなって…
…え?
なに今のリップ音……そしてなんで総悟の顔がこんな近くに…
え?今…キスを…
「わかったか」
綺麗に微笑む総悟は 上空の星々にも劣らなくて。
「え……っと」
心臓の鼓動が気持ちを浮つかせ、うまく話せない。
「よかったな、織姫になれるぜ」
「そう…ご?」
「…好きでさァ桜子」
ぎゅうと、総悟のぬくもりがあたしをやわらかくつつんだ。
「彼女…に、なってくれやすかィ」
「……うん…!」
思わず涙がこぼれそうになるのをぐっと堪えて、あたしは総悟の胸に顔を押し付けた。
さらさらと、若竹色の笹の葉が夜空に流れる。
溢れんばかりの星々と天の川の下で、地上でおきたもう一つのお話だ。
地上の七夕
織姫は無事 彦星に出会えましたとさ。
(あっこら勝手に見るな)
(副長の座…って ただの醜い野心じゃん)
(俺ァお前みてーにロマンチックなことはかかねェの)
(さっきはロマンチックだったよね)
(…死ね)
(ひどっ)
短篇集