短篇集

□狙い撃ち
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「おっ桜子、射的ですぜ」

「ほんとだ」


列をつくっているその屋台には棚が並んでおり、中央には巨大なくまのぬいぐるみが座っていた。

ずきゅん、桜子は胸を打ち抜かれたような衝撃に思わずのけぞる。

興奮しながらつい総悟の腕をぺちぺち叩いてしまった。


「かわいい!総悟、あれかわいいっ!!」

「あの巨大熊かィ?」


言いながら、総悟は近くにいた男の子から鉄砲を奪う。


「ちょっ総悟、何してんの?」

「桜子の望みとあらば、くまだろーがなんだろーがとってみせまさァ」


玉をこめる総悟の顔は真剣だった。


「きゃーー、総悟っ!」


腕をつかむ。
おお、やるのかと、辺りも騒がしくなった。

浴衣の袖をまくって銃を構える総悟の男らしさにちょっと、いやかなり見惚れてしまう。

惜しげもなく晒された白い腕はしっかり筋肉がついていて、わたしの胸はうるさく高鳴った。


「よし兄ちゃん、玉をプラスしてやるぜ」

面白いと思ったか、腰かけるだけだったおじさんは弾丸をつまんだが、総悟は首を振った。


「いや、いらねェ。」


ガシャン、と構える。

その真剣な眼差しに、なんだかこっちが緊張してきてしまう。

長い指が、引き金にかかる。
周囲は息をのんだ。



――そして。


「古今東西、大事なモン撃ち落とす玉なんてのは、一発って決まってるんでさあ」


パァァン!!

まるでスローモーションのビデオみたいだった。


弾けた音に、グラッと傾いたかと思うと大きなくまは棚から転げ落ちた。


「きたぁぁ本日の最高景品がついに獲得されたぁぁぁぁ」

おじちゃんの叫び声と共にカランカランとけたたましく鳴らされたベルに、辺りが歓声に包まれる。


「ほらよ」
「あ、ありがとう!」


ほいっとほうられたぬいぐるみを慌てて受け取る。

総悟から、プレゼント。嬉しくて、くまを抱えた胸にじわんとあたたかさが広がった。

やだ、総悟かっこいい。


「桜子」

「ん?」

あたしを見つめる総悟の顔は屋台のあかりにぼんやりと照らされている。


「どうでしたかィ」

「……かっこよかった」

「まじか!そりゃどうも」



はじめっから、それを狙ってたくせに。

ほんのり頬を朱に染める総悟にそんなことを思う。

まったくこの男にはかなわない。

嬉しいため息をつくとあたしはくまを抱えて総悟にくっつき、腕をからめた。

「なんでい」

「楽しいね!」

にっこり笑うと、返される笑み。

完全に撃ち抜かれたあたしの心はさて、一体どこへ向かうのか?

――わかんない
わからないけど、今はただ楽しもう、祭はこれから。


弾けた気持ちと共に祭の夜空を見上げながら、紫のヨーヨーをひとつきしてみた。


総悟に、しっかり打ち抜かれました。
かっこいい、あたしだけの恋人。

狙い撃ち


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