短篇集

□カラフルフィンガー
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「あーっ」

二人きりの部屋に、何度目かのあたしの叫び声が上がった。



「またかィ」

「う、うん…」


人のベッドに寝転んで、人の雑誌をめくっていた総悟は呆れたように顔を上げた。

ため息をついて雑誌に視線を戻す。


「桜子の不器用さにはあきれたぜぃ」

「だって…」


力なく見つめる右手の人差し指の、爪。

薄いピンクがはみ出していた。



「意外と難しいのよ…」

「今どきマニキュアも塗れねー女が何処にいるんでィ」

「ここにいます」

「下らねェ事言ってねーで、なんとかしろそのきたない爪。」



総悟に言われ、あたしは泣く泣く除光液で爪をこすった。

ため息だ。
マニキュアでも塗って、たまには総悟に見せてあげたかったんだ。

というか、見て欲しかった。


どうしてあたしはこう不器用なんだろうか。
なんだか悔しい…

せめて、ちゃんとマニキュアを塗りたい。



「あーあ…せっかくいい色買ったのに」


さくら色の綺麗なピンク。

以前雑誌で見たことがったから…というミーハーな理由で購入した。



「…高かったのか」
「うん、それなりに。」

「できもしねーのに買うからだろィ」

「だって、総悟に見せたかったんだもん」


そう言うと、総悟は少しだけ顔を上げた。

赤いその目を細めて。

形のいい唇がおもむろにひらいた。


「おい、桜子」

「なに」


爪をみがきながら聞き返す。
ふっと舞い降りた影気がつくと、目の前に総悟がいた。

「俺がやってやりまさァ」
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