短篇集

□カラフルフィンガー
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「…は?いや、いいよ」

「遠慮すんな、任せろィ」


「難しいよ」
「おめェが言う事じゃねーだろ。」


うっ…
いや事実だが。

どうも総悟って、正論をズバっと言い切ってしまうところがある。


ぶつぶつ言うあたしの後ろにまわりこみ、マニキュアのビンを取る。

そしてなんと、後ろからあたしを抱き込むようにして座ったのだ。


「え、…後ろからやるの?」

「ダメかィ?」
「いや、ダメじゃないけど…」


だって恥ずかしい。

近いし…。

あたしの心境なんかおかまいなしに後ろから包み込まれた。


「じっとしてなせェ」

マニキュアを染み込ませたハケを、あたしの爪にあてる。

ひんやりした感覚が走った。


「ひゃっ…つめた」
「我慢しろ」

「っ……」


甘くかすれた声で囁かれて私は悶絶したい気分だった。

耳元からぞくりと伝わった、背中を這うような低い声にもぞもぞと抵抗。


しかし、こら、と頭を軽くはたかれたしなめられてしまった。


「じっとしてろって」
「ん…」

自分の爪に目をやる。

……何この人、うまい。



ピンクが、薄く綺麗に広がっていく。
余すことなく全体に、まんべんなく。

薄すぎず濃すぎず、その上むらもない。

巧みな手つきを見つめていたあたしはちらっと視線を横にすると、真剣な顔をした総悟が。


なんだか胸が熱くなった。

しばらく無言の時間が流れていって、あたしは息を飲みながら爪を見つめる。

ちく、たく、と正確に時を刻む時計の音だけが聞こえる。


じっと動かず、ただ固唾をのんで見守った。
そしてさらに3分後。



「…できやした」

「おおぉおお!!」


あたしは歓喜の声を上げた。


「すごい!総悟上手!」
「まぁねィ」

お手本みたいな、綺麗なピンク色の爪。
嬉しかった。


「総悟ありがとう!」

「どう致しましてェ」

「またやって!次はねー赤!あ、水色でもいいや」
「何色でも任せな」


こんな器用で、なんやかんやで優しい素敵な彼氏。

また、沢山マニキュアかわなきゃなあ。


ぼんやり呟いていると、どっかにおやつ食べに行きますぜ、と総悟が手を引く。



廊下を行く総悟を追い越して玄関を飛び出した。

そのまま門をでながらふふんと鼻歌まじりに手を空にひたす。


桜いろが太陽にすけて綺麗だ。

あたしがうきうきと指を踊らせるのを、続いて戸から出てきた総悟が優しく見つめていた。



カラフルフィンガー

恋を誘う巧みな指

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