短篇集

□がんばってる君に
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「おー桜子、来い」

「銀八ぃぃ!!

あたしの何がきにくわないのよいってみなさい!
直していくから!」

「え〜、いいの?しいて言うなら、そのサラサラヘアー?」

「あ〜そう……ってちがーう!」

そうじゃなくて、よばれた訳を聞いているんです。


「ああそれね。いやテストの件で。」

「なんで!?

神楽とかみたいなのいっぱいいるじゃん!特にこのクラスには!」

「神楽はいいんだよ別に。あいつの一教科平均、27だぞ。

『どの教科をやっても』あれぐらいしか取れねーんだ」


そう言うと、銀八はあたしを指差した。


「それに引き返え、てめーはどうた?

英語100で、なんで数学が41とかいうことになるわけ?

おかしくね?もうなんでお前この国に生まれてきたんだよ英語圏いけよむしろお前何人だよ」

「生徒のこと侮辱するなんて最低です、ハゲてください」

「てめーがハゲろ。

んじゃまぁ専属教師つけといたから、みっちりしごかれるこったな。頑張れや」

「は?専属教師?」


教室を出ていく銀八を見つめ、しんとなった部屋を、ゆっくり振り返った。

後ろに、ほお杖をついたポーカーフェース。


「ま…まさかね…英語78だったよね、あんた。数学そんなできるわけ…」

「98」

「え?」

聞き返すと、総悟は立ち上がり、紙を引き出して歩いてきた。

バサッと突き付けられた紙――

『98点』

…え?

「嘘、うそ!」

「合計174で、俺の勝ちでさァ。」

私はその答案を食い入るように見つめる。
総悟に負けるとか嘘だ…


「んまぁ俺は根っからの理数系でねィ
てめーとは脳の構造がちがうんだよ」

得意げに鼻を鳴らす上から目線イケメンをわたしはむっとしてにらみつけた。

でも、悔しいけど、これは事実なのだ。

「せっかく英語得意なのに、数学のせいで総悟にも勝てないんだね」

「総悟にもってどういう意味でィ」
「だって〜、あんなに、勉強したのに」

頑張ったから。

なぜ頑張ってるかというと、私たちはいずれ受験生になり、大学入試が待っているわけで。

選択肢を狭めるわけにはいかないのだ、
たとえば、この人がどの学校に行くと言っても、付いていけるくらいでないと…。


だけど私はそんな長い未来の約束を取り付ける自信はなくて、口には出せなかった。

かわりに、そのワイシャツのすそをひっぱってぽつりと言う。


「…数学、もっとできるようにしたい」
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