短篇集

□甘いトリート
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からっとした風が、色づいた葉を青い空へと巻き上げた。

なびく髪を押さえ、俺は身を乗り出す。


桜子はキョロキョロと辺りを見回していた。

誰かを探しているような仕種にちょっと顔がほころぶ。

………出番か?



「沖田隊長ーー」

図星だ。


「へい」


乾いた空気を切り裂いて、俺は屋根から飛び降りた。

とん、と地面に着地する。


「そんなとこにいたの?
早く来てくれればよかったのに…」

「なんで?」

「なんでって…あ、そうだ!!」


桜子は笑顔で両手を差し出した。


「トリックオアトリート!!」


その笑顔を見つめ、俺ァため息をついた。


「生憎今日は持ってないんでさァ。」

「えー、じゃあいた…」

「んだが代わりの品ならあげられるかもしれやせん。
甘いもんは好きかィ?」


「あ、だいすき!」


ぱっと目を輝かせた桜子を見て、腹ん中はもう真っ黒だ。


「そーかい、んじゃあ」


白い頬に手を添え、びくって震えた背中に手を回して

俺は唇を押し付けた。



「んーーっ」


逃げる桜子の頭を押さえ、唇を割って舌を入れた。


「っ……〜っ」


顔を紅潮させ、苦しまぎれに俺のスカーフを握った桜子。

あんまり辛そうなんで、俺は離してやることにした。



「っはぁ、は……なに、して」

「甘きゃいいだろィ」


ニヤリと笑って見せると、桜子は更に顔を赤らめた。


「あ…甘かったけど」

「トリックオアトリート」

え、と顔を上げる桜子に手を差し出す。


「下せェよ。」

「え、あたしが?」

「キスをくれなきゃいたずらしちゃうぞ」
「しかもキス限定!?」


頷いて目をつぶる。

ぐっと前で桜子が覚悟を決めるのがわかった。

熱い吐息がかかる。


ちゅ…
柔らかいものが軽くふれ、目をあけると桜子が微かに笑ってた。



「あ……あげたよ」

「しかと頂きました。」


照れたように笑う桜子。
なんとなく頬が緩んだ。

「桜子」

「なに?」

「ハッピーハロウィーン」

桜子は少しだけ目を丸くした後、「ハッピーハロウィーン」なんつって、可愛らしく腕に飛び込んできた。




甘いトリート


お前の抱えたそのお菓子の、どれよりも甘いことを願いおう
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