短篇集

□もっとかまって
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あと一枚、ふっと息をついたところでコンコンノック音。

許可を下す間もなく乱暴に戸が開かれた。

「邪魔するぜ土方コノヤロー」
「うん、邪魔だという自覚があってよかったよ。」

面倒くせー奴が入ってきた。

内心舌打ちしつつも、書類に向かったまま「どうした?」なんて聞いた。

沖田は何も言わない。
しばらく沈黙が流れた。

聞こえてくるのは 淀みなく滑らせる筆の音だけ。

数分後、背後から盛大なため息がもれた。


「成る程ねィ
桜子の気持ちもすこしはわかるってもんですよ」

自分の女の名前が小生意気な部下の口から聞こえ、わずかに肩を揺らす土方。

「……なんであいつが出てくるんだよ」

精一杯の冷静を装って尋ねると、肩をすくめる気配がした。


「あんた本当に罪な男だ。
女ひとり満足に扱えないんですかィ」
「用件を言え」

「桜子が走ってきやしたよ。そりゃあもう凶悪な面でして。
まるでひったくりしたとこをサツに追い回されて町中逃げ回る犯罪者みてーでした」

「てめーは人の女捕まえてなんてこと言ってんだ!」

イライラと怒鳴る。
沖田は、おーこわーなんて肩をすくめて立ち上がった。


「まーそれを言いにきただけでさ。」

「いやそれってどれ?」

「あんたね、大概にしとかねーと愛想つかされるぜ?」

「てめーに関係ねーだろーが!
つか、誰のせいでこんな仕事漬けになってると思ってんの!?」

「まーまー。
せいぜい仲良くやりなさいな。じゃ失礼しやすぜ」

スーッと襖を閉めていく音。

室内には再び、鳥のさえずりだけが響きわたった。


「……言われなくてもするってーの」

オレは物分かりのわりぃ女は嫌いだ。

が、好いた女に寂しい思いをさせたいわけでもねぇ。
自分のものにしてしまったからには、責任を持って笑顔を守らなくてはいけない。

そう思っていた。
土方は真面目な男だった。


外から入ってくる陽射しがやわらかい。

息をつくと、土方は再び机に向かい、これまでにないほどの速さで書類を片付けにかかったのだった。
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