短篇集
□ぬくもり
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ふぅ、と校門の横の塀にもたれかかる。
疲れたなぁ、そして寒い。
携帯を取り出して、時計を見つめる。
まだかなぁ、総悟くん。
香るどこかのあたたかな夕飯のにおいに私は目を閉じた。
なんだろう、美味しそう。
あったかそうだな、いいな。
5時30分
携帯の時刻が変わった。
本格的に冷え込んできた。つめたい風が寒さをより酷なものにする。
剥き出しの手に、はぁと息をかければ広がる白い吐息。
まだかな、まだかなとそわそわ脚を動かし続けた。
わたしと総悟くんは、お付き合いをしている。
家が近いけど、学校は別。
女の子が一人で帰るなんて危ないと、いつも家まで送ってくれるのだ。
わたしは一人でも大丈夫だと思うけど、総悟くんは許さない。
ちょっとしたことでも、ものすごく心配する。
前に学校で携帯の充電がなくなってメールができなくなったとき、返信が来ないからって、学校まで来たことがあった。
びっくりしたのは、向こうもまだ学校がある時間だったからだ。
以来わたしは、朝家を出るときは必ず充電を満タンにしてでるようにしている訳だ。
総悟くんに言わせれば、あたしは子供っぽいらしい。
『ほんと、誰にでも無防備で心配でさァ』
むぼーびって、どうやって書くんだろう。
ともかく、幼いんだって。
なんでだろう、どこがそんなに子供っぽいんだろう?
あ、このうさぎの手袋かな?
でもこれは、総悟くん経由で知り合った神楽ちゃんというお友達が誕生日にくれた大切なものだから使わないわけにいかないのに。
いつだっあか総悟くんの友達のトシくんがそんなわたしたちを見て、
『総悟は甘やかしすぎだろう』
と笑った。
わたしも笑ったけど、次の瞬間トシくんは爆音と共に吹っ飛んだ。
普段は優しい総悟くんですが…トシくん絡みとなると、なんだか話は別みたいです。
わたしはと言うと、そんな優しい総悟くんがすきだ。
普段はポーカーフェースだけど、わたしにはふわりと笑いかけてくれる。
そのやわらかい笑みを見ると胸が緩んで、じんわりするのだ。
会いたい。
早くあのあたたかさにふれたい。
鼻をすする、風が吹く、落ち葉が弾ける、ご飯が香る。
もう冬だ。
寒さを振り払うように、葉っぱを踏み続けた。
「……桜子?」
新しく聞こえた音にわたしはぱっと振り返る。
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