短篇集
□酒と女と朧月
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「聞いてよ副長ォ〜」
「だから土方じゃねーって言ってんだろィ…」
「聞けよコラァ!」
いきなりすごい大きさで怒鳴られた。
いやいや怒鳴りたいのこっちだぜ、俺なんでこんな怒られてんの?
「聞いてよ副長、総悟が冷たいんだよ、ひどいんですよぉ〜」
振り返った。
なんつった?俺?
俺が冷たい?
「あたし…愛されてないのかもしれないの…」
ズルズル。
桜子の身体が腕から滑り落ちる。
あ、あ、これヤバい。
これ絶対面倒くさいパターンだ。
「最近、見廻り行っても神楽ちゃんとばっか、り、遊んでるし」
「あの…桜子」
「なんだかんだで女の子の友達多いし、あやしいし」
肩が小刻みに震えてる。
俺は慌てて座り込んだ桜子の横に腰を下ろした。
「桜子?」
「…あたしだって…あたしだってぇ…構ってほしいのに……
か、神楽ちゃんと居る方が楽しそうだし…!
この前だって…見つめあっちゃって!」
長い睫がふるふると震える。まずい。かなりまずい。
「いっつも楽しそうでしょ!?
ほほえましいとも思うけど!でも…でも…!」
「落ち着こう、な?あそうだ、水飲みなせェ、水…」
「デートの時も途中で神楽と喧嘩してっ……!
あたしのことほっぽらかして!わたし楽しみにしてたのに、最後まであたしとはぜんぜんあそんでくれなかった!」
うわぁぁぁん
腕に顔を埋め、声をあげて泣き出した。
俺は呆然とその頼りない姿を見つめる。
面倒くさい………
本当に面倒な女………
だけど
今こいつを泣かしてるのは、間違いなく俺なんだよな…
「…桜子」
「うっ……ひ、っく」
「桜子俺でさァ」
散らかった周りを片付けながらその背中をさする。
「わかるか?」
「ん…ひっく、総、悟?」
「ごめんな、泣かせて」
びっくりしたような顔で俺を見上げる桜子。
瞳いっぱいに涙がたまってた。
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