短篇集

□恋する日直
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「…い…おい、…桜子!」

「ふあ…?」


誰かの声と強い揺さぶりに、わたしははっとした。

ややぼやけた視界に、鼻筋の通った綺麗な顔。

想い人が自分を覗き込んでいることに気がついて、わたしは飛び上がった。



「おお沖田くんお、お、おはよう」
「おはよう?」

「あああの、なんでもないです!」



動揺のあまりおかしなことを口走っちゃったよ〜!

どうやらあたしは1時間目から爆睡していたらしい。

怪訝そうに、でも口元に微かな笑いを含んで見つめられ、もう顔も上げられない。

は、恥ずかしい………



「面白いですねィ桜子は」

「どうも…」


絶対変な奴だと思われてるよ…

かぁと染まる頬。
目の前のストーブのせいだけではないいはずだ。





「はーい国語始めるぞー」

けだるそうな声と共に、銀髪が舞い込む。
あー、眠い……


「ん?おい黒板消えてないぞ
誰だ日直、桜子か?」


あっ……!

皆の視線に体がかあっと熱くなり、わたしは慌てて立ち上がった。

段に上がり黒板消しを手に取る。

端から急いで消しにかかったものの、羅列した化学式はなかなか思うように消えてくれない。

ああもう、化学の先生筆圧こすぎだよ…!


わたしの掃除を待つみんなの視線が、背中にささって痛くてそわそわする。

早く立ち去りたくて、もうひとつの黒板消しを手にしようと右に手を伸ばしたそのときだった。


なにか温かなものに触れて、指先に電流が走る
びっくりして顔を向けるとそこには――

無言で黒板を消す、沖田くんの姿があった。


「おお沖田くん!?いいんだよわたしの仕事なんだから!」

「なんだぁ沖田、ジェントルマンか?優しさPRか?」


慌てるわたしの横で、呑気に余計なことを言う銀八をぎっと睨む。

沖田くんはお構いなしといった風に、黙々と黒板を消してくれた。
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