短篇集

□想い溢れる一年を
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「桜子〜これ美味しいアルよ!」

「どれどれ?」


袖を引っ張ってきた神楽ちゃんに尋ねる。

これ、と箸で摘まれた天ぷらに口をあけると神楽ちゃんが入れてくれた。


「ほんとだ、おいしい!」
「でショ?」

「どれでィ」


隣の総悟が顔をだしてくるので頬張りながら天ぷらを指差す。


「下せェ、俺にも」
「はい」

箸でつまんで総悟の皿に置こうとしたそのとき、その手をつかまれた。


「え?」

「食べさせて」

「………は?」

「あーんって」


は…はああああ?
顔がほてるのがわかる。

あたしを見上げてねだる総悟はなんだか可愛い。

息をついてあたしは天ぷらを口まで運んだ。


「ほら…あーん」


「ん」



かっ…可愛い!

天ぷらを頬張っている姿はいつもに戻ってるけど、どこか心をくすぐる。


「ちょっと〜そこのお二人さん
イチャつくのもほどほどにしてくれますぅ?」

「ぎっ、銀ちゃん!やめてよ」

「そうでさァ彼女いないからって俺らに当たってんじゃねーよ
わりいなぁラブラブアツアツでよ」

「わっ」


総悟に引き寄せられ、大きな体に倒れ込んだ。



「総悟恥ずかしいです!」

「恥ずかしいの?じゃあもっと見てもらおうか」


「ちょっと、もう、ちょっと!
このどえす!!」


沸き上がった笑い声。

恥ずかしいのは事実なんだけど、正直少し嬉しい。

総悟とみんなと、年越しまであと1時間。


光る宵月が優しく包む、今年の終わりはもうすぐそこだった。
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