短篇集

□陽だまりの縁側
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「あ、沖田隊長、桜子さんも」



振り返るとザキが紙袋を提げて立っていた。

もーだめじゃないですかこんなとこで寝てちゃ、なんて言いながら袋のなかをあさる。


「これ、原田さんがくれたんですよ。よかったらお二人もいかがですか」


「おーザキ、たまには気が利くじゃねーか」


「総悟だめでしょそんな言い方。
ありがとうね、ジミー山崎くん」


「いや桜子さんフォローしてるみたいですけどえぐってますから
売れない芸人みたいな名前になってますから」


袋から出したお饅頭を手渡すジミーくん。



「あ、副長と局長も、原田さんから差し入れです」


おもむろにあたしたちの後ろの局長室に呼びかけた山崎に、総悟とあたしは身を起こした。

すーっと開けられた障子の向こうには、テレビの前に並ぶ二人の姿。


「げっ、なんで土方さんもいやがんでィ」


「げっとはなんだ
てめぇまたサボってンな」

「土方さんだってテレビ見てるじゃありやせんか」

「これぁ攘夷浪士テロの特番見てんだよ一緒にすんな」


部屋から縁側。

不毛なやり取りが続くのを、あたしは頬杖をついてにこにこ見つめていた。

近藤さんも盛大に笑う。


「まあまあトシ総悟!

こんないい天気だ、少しは浮かれるってモンよ なぁ桜子ちゃん。
山崎、その饅頭くれないか」

「はいはい。副長もどうぞ」


おう、コレ『むつや』の饅頭じゃねーか?知ってるんですか副長…

そんな会話を聞きながら、あたしはべーっと舌を出す総悟を軽くこづくと縁側に座り直した。

やがて聞こえなくなる背中の会話。

注ぐ光のベールにあたしは目をとじ、そっと隣によりかかった。


「…なんでィ」
「んーん、なあんにも」


気持ちわりィ奴、と言いつつもあたしを振り払ったりせず黙って饅頭を口にほおり込む総悟が愛おしい。

あたしも饅頭を頬ばった。

あたたまった体に甘い味が広がる。


ふいに、総悟の右手があたしの腰にまわった。

ちょっとだけ顔を覗くと、饅頭を頬張る相変わらずのポーカーフェイス。

あたしはその口元についた餡こをそっとすくいながら、様子を伺うように尋ねてみた。


「ね、総悟…
もうすぐなんの日か覚えてる?」


なにも返さずただ食べつづける総悟。土のかおりが鼻をくすぐる。


「きーてる?総……きゃぁ!」


ぎゅううと強く抱きしめられたかと思うと次の瞬間、二人してぬくい縁側の上に倒れ込んだ。


「いったー…」

「……俺が記念日忘れるとでも思いやした?」


目を見開く。

あたしの肩に顔をうずめたままの総悟はかすかに耳をあかく染めていた。

「ううん……」


抱きしめられたまま、呆然と返事を返すあたし。
それ以上の会話はなかった。

でも、それでも。

全身をつつむ身体から伝わる、そのぬくもりだけで十分なのだろうとどこか遠くで思った。



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